言葉の森新聞 2008年8月4週号 通算第1044号
言葉の森新聞 2008年8月4週号 通算第1044号
文責 中根克明(森川林)
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■■切り上げの人生
半端なものが出たときに、とっておこうと思う人と、捨ててしまおうと思う人がい
ます。計算で言えば、切り上げをするタイプと、切り捨てをするタイプです。
読書の好きな子は、空いているわずかな時間があると、すぐに本でも読もうと思い
ます。読書に慣れていない子は、たっぷり時間があっても、本を読むのは後回しにし
ようと思います。
コミュニケーション力のある人は、どうでもいいことであっても一応連絡しておこ
うと思います。コミュニケーション力のない人は、どうでもいいことはまず連絡しま
せん。
人生は、こういうちょっとした差が積もり積もって大きな違いになってくるのでし
ょう。
「好きこそ物の上手なれ」という言葉があります。必要に迫られてやる人よりも、
好きでやる人の方が物事をうまく遂行できるのは、こうしたわずかの差が実は結果の
大きな違いになるからです。
では、この差がどこから出てくるかというと、それは潜在意識からだと思います。
人間はだれでも、自分のことを自覚しているように思っていますが、自覚以前の自己
認識というものがあります。それは、理由もなく好きだったり嫌いだったり得意だっ
たり苦手だったりしていることの背後にある心理的な影響力です。
最近の遺伝子生物学の研究によると、一つの細胞の中にあるDNAには約30億の
情報があり(本当はその30億の情報が、更に相互の並び方によって異なる情報を生
み出していると思いますが)、あるタンパク質を合成するためには、その情報を開く
だけなのだということです。DNAの二重らせんはちょうどチャックのように組み合
わさっているので、そこから情報を取得するためには、該当する部分のチャックを開
き、それをRNAに転写するという形になります。(そのRNAがタンパク質を合成
します)
そして、どの情報も、既にあるDNAの中から持ってくるだけですから、必要に応
じて新しいものが生み出されるのではなく、すべてのものは既にある情報を思い出す
だけで作り出されるということです。
同様のことが、潜在意識についても言えるのではないかと思います。世の中には、
生まれつき体を動かすことが好きな人と、静かに思索することが好きな人がいます。
その差を生み出しているものは、それらの人のそれぞれの潜在意識です。しかし、体
を動かすのが好きな人の中には、静かに思索することが好きな潜在意識も実はあるの
です。そして、たまたまその人は、静かな思索の潜在意識の方ではなく、活発に体を
動かす潜在意識の方を選択しているということなのだと思います。
ここから、次のことが明らかになります。それは、自分が無意識のうちに抱いてい
る自分のイメージが、実は潜在意識の選択によるものだということです。
そして、潜在意識は自覚することによって、選択できるものになります。「どうせ
私は……だから」と言いそうになったとき、それが自分の潜在意識の選択なのだと自
覚すれば、人生は大きく変わります。その変わり方は、これまで切り捨てにしてきた
ものを切り上げにするぐらいの小さな端数の変化ですが、その端数の変化が積もり積
もって大きな変化になっていくのです。
■■今の世界に生きるということ(いろは/いた先生)
「グローバル」という言葉を聞いたことがありますか? 新聞を読んでもニュース
を聞いてもこの「グローバル」という言葉は微妙に変化することはあってもよく耳に
する言葉です。難しい外来語なので小、中学生のみなさんにはピンとこないかもしれ
ません。けれど、足音も無く広がっているのがこの「グローバル化」だと思います。
グローバルという英語を直訳すると「地球規模の、世界全体の」という意味になり
ます。昔であれば一国で起こった出来事は一国で処理することが可能だったのですが
、今では一国で起こった出来事が全世界へ広がっていくということです。
新聞の一面に載っているできごと、ニュースのトップで報じられているできごとは
他の国のできごとであり日本とは全く関係の無いことに思えるかもしれません。けれ
ど、先ほども書きましたが今の世の中はどこかの世界で起こっていることが回りまわ
って、形を変え自分たちに影響を及ぼすのです。
たとえば今ニュースをにぎわしているものに「食糧問題」「原油高」などが挙げら
れます。前学期カキ、6.4週の長文は「バイオ燃料」について書かれていました。
そこで私は数人の生徒に「トウモロコシを燃料にすることによって食料不足になって
いるんだって。どう思う?」とたずねたところ「トウモロコシはあまり好きではない
ので大丈夫です。」というかわいい返事が返ってきました。そう、2年生のときはそ
の答えで十分なのです。自分の意見を電話口でしっかり伝えることができる、それだ
けで十分。けれどそこで私はちょっと他の質問も投げかけてみました。「じゃあ、パ
ンやうどんは好き?」。すると元気な声で「うん。」という返事です。「トウモロコ
シがバイオ燃料として高く売れると知って、トウモロコシ畑だったところを小麦畑に
変える人が増えてきているんだよ。そして小麦を日本にたくさん輸出してくれていた
オーストラリアは記録的なかんばつで雨が降らないので小麦を作ることができなくな
っている。いろいろなことが重なって今小麦を使った食品の値段が上がっているんだ
よ。もしかすると大好きなパンやうどんが食べられなくなるかもね。」と話してみま
した。電話口で神妙に聞いている姿が想像できる数秒後。「こまっちゃう……。」と
いう言葉が出てきました。
「風が吹けば桶屋がもうかる」ということわざがあります。回りまわって違った形
で影響が出る、という意味ですね。今の世の中は世界規模でこのことわざが横行して
いると言ってもいいかもしれません。
今例に挙げたのは「バイオ燃料」にからむ話だけですが、他にもアマゾンの破壊、
インドネシアの自然破壊など私たちが実は加害者かも? という事例は多々あります
。世の中で起こっていることを他人事として通り過ぎるのではなく、ちょっと足を止
めてみることは必要です。その一歩を毎日の生活から始めてみませんか? 「関係な
い」とか「当たり前」で終わらせず自分の立場に置き換えてみる。自分の中に似た話
を見つけてみる。すると新しいことに気づくはずです。ふと足を止めることが文章に
深みを生むのではないかと思うのです。
お父さま、お母さまへお願いです。是非長文に目を通し、親の視点としての意見を
子ども達に伝えてみてください。子ども達はその考えを自分へフィードバックするは
ずです。世の中は広くて狭いということ。今自分の生きている世界は自分だけで生き
られる世界ではないことにうっすら気づいていくはずです。親の話からどういう結論
を出すかは子どもの自由です。一つの話に「こういう話もあるよ」と一つ提示しても
らえるだけでものの見方が一つ増えるではないかと思っています。あまり真剣になら
ず、夕食時の話題の一つとしてあげてみてください。そのときは聞いているのか聞い
ていないのか分からない反応でも、何か一つ心の中に残っていくのが家族の会話だと
思います。
■■『赤毛のアン』(ひな/あられ先生)
今年はオリンピックの年ですが、『赤毛のアン』が誕生して100年の年にもあたり
ます。6月にはそれを記念して赤毛のアンの記念切手が発売されました。かわいい絵
柄だったので、この切手は絶対買わねばと思って郵便局へ行ったのですが、すでに完
売という人気ぶりでした。
日本では『赤毛のアン』という題名がすっかり定着しています。しかし、作者のモ
ンゴメリ自身がつけた題名は”Anne of Green Gables”(アン オブ グリーン ゲ
イブルズ)です。グリーンは皆さんも知っているように「緑」という意味です。ゲイ
ブルズは屋根の形を表した言葉で、日本では切妻屋根と呼んでいます。ですから直訳
すると『緑の切妻屋根のアン』という題名になります。私はこのことを知った時、ど
うして屋根のことなどに注目した題名をつけたのだろうと不思議でなりませんでした
。それから、もうひとつ原書を読んで不思議に思ったのは第一章のリンド夫人が”co
tton warp quilts”を”knitting”という箇所です。quilt(キルト)といえば針で
布を縫う刺し子と考えるのが一般的なのに、それがなぜknitting(ニッティング)編
むとなっているのか。ずっとずっと気になっていました。この二つのなぞが、今年つ
いに解明しました。
『赤毛のアン』発行100周年を記念して、NHK出版から『赤毛のアンへの旅』と
いう本が出版されました。その中で「グリーンゲイブルズ」はアンが住んでいた農場
の屋号をいっているとあったのです。当時、プリンスエドワード島には同じ名字の人
も多く、人々は互いに屋号で呼ぶというのは、田舎育ちの私にはよくわかります。私
の友達もそういえば、名字は中井ではないというのになぜか屋号が中井で「中井の○
○ちゃん」と呼ばれていました。身寄りのなかったアンが、マシュウやマリラと心を
通わせグリーンゲイブル農場になくてはならない存在となっていく話の展開にぴった
りの題名です。そして、モンゴメリがつけたアンシリーズの題名は『アヴォンリー村
のアン』『(プリンスエドワード)島のアン』と続きます。この本で指摘しているよ
うに、アンの生活の場が成長とともに一つの農場から村全体へ、そして島へと広がっ
ていったことをみごとに表している題名です。
日本で初めてアンが訳されたのは1952年です。そのときの翻訳者、村岡花子さ
んは第一巻を『赤毛のアン』第二巻を『続赤毛のアン』第三巻を『第三赤毛のアン』
としています。のちに第二巻は『アンの青春』、第三巻は『アンの愛情』と変えられ
、今では他の翻訳者もそれにならっています。
もうひとつのなぞ、「コットンワープキルト」は白い木綿糸で編んだモチーフをつ
なぎ合わせたベッドカバーでした。19世紀に大流行したそうです。百聞は一見に如
かずで、実物の写真をみると棒針で「編む」ということがよくわかります。あらため
てキルトという単語を英語辞書で引いてみると「厚手のベッドカバー」という意味が
出ていました。
文化の違う外国の作品を正しく理解するというのはなかなか難しいものです。でも
、ぎゃくに本を読んで生まれた疑問を解く楽しみがあります。今年の夏休み、みなさ
んがたくさん面白い本と出会えますように!
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