[ サクサクッとショートエッセイ ]

車を運転する方はこんな経験はございませんか? 側道から本道に入りたがっている車がさんざん躊躇したあげく最悪なタイミングで合流し、周りの車をヒヤッとさせるようなことを。安倍首相の辞任劇が、まさにそんな感じでございますね。なんか政治的な話題が続いちゃいますが、その辞任劇に関して、ちょっと思うところがありますので、まぁ、しばし、お付き合いのほどを。

もう安倍首相、許してあげようよ。解放してあげようよ。そもそも安倍首相の就任のいきさつって、気の弱い子に無理矢理に学級委員を押しつけたようなものじゃない。もともと首相に向いてないような人が、よくここまでやったでしょ。誰も引き受けてくれないような貧乏くじ首相を一年間も務めてくれたのだから、まぁこれで楽をしてもらいましょうよ。

安倍首相を無責任とか言うけれど、本当の無責任は一年前にさんざん大風呂敷を広げて、その風呂敷をたたまぬままさっさと退いたイイカッコシイの小泉前首相でしょ。格好いい部分だけ演じて、いちばん大変な局面になるとサッサと他人に下駄を預けてしまうって、ちょっと小泉、調子いいのでございます。まぁ、そんなタヌキなところがなければ、政治家なんて務まらないのでしょうけどね。

とか言うワタクシ名古屋薫も、様々なプレッシャーに負けて東京から名古屋に逃げ帰るといったことが、過去に二回もございます。安倍首相の場合は、その辞め方が最悪でございますが、プレッシャーに潰され逃げ出したその気持ち、ワタクシ分からないでもないのでございますけどねぇ。

ではここで、ワタクシの経験談を、ひとつ紹介するのでございます。

ワタクシ、高校時代にブラスバンド部の指揮者の経験をしております。大学時代にはオーケストラ部に在籍し、指揮者の留守中にコソッと指揮棒を振らせていただいたりしております(なんか「のだめカンタービレ」を地で行くような学生時代でございます)。その指揮棒を振った際の体験談でございます。

指揮者とかいうと、なんだか楽団を完全に掌握しているようなイメージがございますが、実際には指揮者と楽団とは、ある意味「戦い」なのでございます。指揮者の技量がおぼつかないと、楽団は指揮者をからかおうといたします。わざときっかけを無視したり、わざと音を外して指揮者が気づくかどうか試したりとかね。そんな楽団のオチョクリになめられないように、指揮者は様々な手法を駆使して楽団をコントロールするわけでございます。指揮者の手腕とは、「一にハッタリ、二にオダテ、三、四がなくて、五に理論」。そんなところでございます。

自分が指揮台に立っているときには、そういった楽団の洗礼を散々受ける羽目になるわけでございます。指揮者の時に自分が嫌な思いをしているにもかかわらず、不思議なもので、自分が楽団側に座って他人の指揮を受ける立場に回りますと、今度は、技量の未熟な指揮者をオチョクル自分がいたりするのでございます。人間、痛みが分かっていれば他人に優しくできるなんて言いますが、それは本人の精神力しだい。ましてや、自己顕示欲の強い音楽家の世界では、「ニコッと微笑みながら生き馬の目を抜く」なんて感覚が結構あるのでございます。

そういえば、舞台の上でも同じ思いをしております。舞台の上での立ち位置というのは、稽古時に演出家が“厳格に”決めるのでございます。しかし、舞台稽古を重ねるうちにその立ち位置がジリジリと移動し、ベテラン俳優がどんどんおいしい位置を独占していってしまう。ワタクシの様な端役は、どんどん居場所を失ってしまい、台本に「○○へ移動する」なんて書いてあっても、舞台上でそこまで移動するルートが無かったりするのでございます(笑)。それでベテラン俳優に注文をつけたりすると、とんでもない叱責を受けたりする。舞台の上も、戦いなのでございます。

人というものは優しくあるべきでございます。ところが、自己顕示欲の強い世界では、そんな優しさなんて決して期待は出来ないのでございます。たとえ他人の痛みが分かっている人でさえ、自分が攻撃できる立場に回ってしまうとアッサリと以前の痛みなど忘れて攻撃側に回ってしまったりとか、そんなものでございます。政治の世界にも、そんな陰湿さって、ありますよね。

安倍首相は性格のストレートな、いわゆる「いい人」でございます。そんないい人が、タヌキ親父の巣窟である政界で、よく一年間も頑張られました。お疲れ様なのでございます。ここらで政治からすこし距離を置いて、ゆっくり療養していただきたいものでございます。そして、今まで気楽な立場から突っつき回していた連中は、「やれるものなら自分たちがやってみろ」なのでございます。そうそう、指揮者の奥義、「一にハッタリ、二にオダテ、三、四がなくて、五に理論」っていうのは、政界にも有効かも知れませんよね。

ではでは、次回こそ、朝青龍のことを書かなくっちゃね。それから「どろろ」も棚上げになっちゃってるしね。次回をお楽しみに。

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(2006/1/24以前のバックナンバーはこちらからどうぞ)
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