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2007/02/28

秘伝-通算210号  「目標と目的」

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<文章秘伝>ニュース
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■今回は筆が渋って、書くのにずいぶん時間がかかってしまいました。まだ文
中にそのすっきりしない感じが残っているかもしれません。しかも長いし。
しかし、内容は久しぶりに(?)濃いです。「秘伝中の『秘伝』」かな、と思っ
ています。
こんなことまで書いちゃうなんてスゴい!読んじゃう人がいるなんてスゴい!
つまり、読者の皆さんの意識がついて来てくれるから、僕はここまでセンタリ
ングして(意味は回答文中に)書けるのです。いつのまにか、こんなところま
で来てしまいました。

■とはいえ、何が書いてあるかよくわからない、という人もいると思うのです。
そういう人は、2つの点に気づいてください。

■まず、僕はどんな文を書くときにも、特別な単語はなるべく使わないように
しているということです。哲学用語や専門用語はほとんどないし、あってもき
ちんと説明してあります。また今までの本やバックナンバーを読んでいること
を前提にしても書いていません。もちろん、読んでいたほうが理解はしやすい
面はありますけれど。

■もう一つは、理解してしまえば、とてもシンプルなことを言っているという
ことです。
なかなか頭に入ってこないとすれば、ここで語られている概念自体に慣れてい
ないからです。まだ内面が内容を消化できないのです。
トランプや麻雀のルール説明を文で読んでも、なかなか頭に入って来ないのと
同じです。やってみれば、あるいは覚えてしまえば、単純でしょう。
そこまでは少し時間がかかります。

■というわけで、読んでもなかなか頭に入ってこない、ぼぅっとしてしまう、
という人は、あわてずにゆっくり何度か読んでください。そのうちに頭に入っ
てきます。そういう人にとっていちばん大切なことが書いてあります。

■前回お知らせした橘川幸夫さんとの共著『微力の力』は、現在某出版社にて
検討中です。決まるといいなあ。
今年は出したい本の企画がいくつかあります。去年はたくさん絵を描いたけれ
ども、今年はなんか本を出したい年のようです。
その他にもアレもコレもやりたいけれども、いっぺんにはできないので、じわ
じわと活動していきます。

■『書道占い』。妙なことをやっていると思っているかもしれませんが、すご
く当たると大評判なので、カウンセリングの武者修行として、某スピリチュア
ル・イベントに『書道占い』で出展しようかと真剣に検討中。
我ながら変な展開にワクワクしております。現在目白に来てくださる方、
3,000円にて受付中。メールにてご予約ください。コーヒーなどお出しして、
ゆっくりお話します。



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「目標と目的」



●質問●
いつもお世話になっております。
以前のセミナーには数回出席し、色々なことを学ばせていただきました。

以前はモチーフ(春、など)を与えていただいてそこから自分なりのテーマを
漠然と見つけて書き上げていく感じでした。受身なのでやりやすかったのだと
思いま
す。
その後、自分で書きたいテーマを決めて、文章を投稿するという形式に
なってから、テーマが決められず、何かを書きたい・書かなければという
ジレンマだけはありつつ、文章が書けません。

文章ウンヌンという以前に、自分の人生観の問題だとは思います。

◆目標設定ができない◆

何故なら目標を決めてもそこに意味はあるのか、確かなものはあるのか?

生まれてきて、そしていつか死んでいく それだけなのだからどうせ空しい

これの繰り返しです。

育った環境、影響を受けてきた色々な作品などを通じて上記のような
思考になったと思いますが、抜け出したいし、どうしたら抜け出せるのかと
いつも悩みます。
文章を書きたいし、根気も忍耐もない自分が小さい頃から続けているのが
文字を書くこと・読むことだけなので、それは続けたいです。

情けない話ですが、何かしらご教授いただけましたら幸いです。


●答●
質問を読んでまず「人生の目標」という言葉に、あれ? と思いました。僕は
いつも「人生の目的」と言っているからです。
目標と目的、一見どちらでもいい同じような言葉です。でも、僕は「人生の目
標」と書こうとすると、ひっかかります。
自分の言葉でオリジナルな思考を組み立て始めるには、こういう小さなとっか
かりを大切にしないといけません。
虫メガネで見ないと細部が見えないような虫にも精妙な生命があります。
顕微鏡で見なければみえない微生物でも、人に大きな影響を与えます。
目標と目的の違いもクローズアップしてみると、とても大きなものがあること
かわかります。
今回はそこからお話を始めましょう。

たとえば、「3年以内に1億円貯める」とか、「一年以内に恋人を作る」という
のが目標です。わりと具体的かつ数値的です。
目的はたとえば、「金を稼ぐのが目的」であったりしますが、具体的な目標金
額はなく、方向性だけを指しているケースが多いのです。そして、何のために
金を稼ぐのか、という「その先の」目的があったりします。

目標は、「立てる」ものです。人為的なものです。
それに対して、目的は主に「見つける」、「見出す」ものです。「人生の目
的」は見出す、発見するのです。
ということは、目的は、あらかじめ人の中に「内蔵」されているのです。
この内蔵された目的が一般的には天命とか、天職、という言葉になります。

これは辞書に出てくるような国語学的な定義とは微妙にずれた話になるかもし
れません。ただ人が生きていく方向性には、内側に向かうものと、外側に向か
うものの二つがあることをこの二つの言葉で明確にしたいのです。そこで、外
に向かうものを目標、内側に向かうものを目的と呼び分けてみます。

そのようにわけて考えてみると、目標を立てられないことは、そんなに悪いこ
とではありません。
目標は、世の中で思われているほどいいものではないのです。

どうしてかというと、目標はもともと他人に何かを強制し、管理するためのも
のだからです。
いちばん目標に追われている人といえば、誰を思い浮かべますか?たとえば、
営業マンでしょう。数字に追われて、何百万、何千万円という売り上げ目標を
設定させられる。そうすると、会社はとても管理しやすいのです。働き者がも
っと働くようにルールにしたがって歩合給を出せばいいのです。そして、ノル
マを果たせない人間は無能者として切ればいいのですから、こんなに簡単なこ
とはありません。

軍隊のミッションなど、組織的な動きをするものにも、具体的な目標は重要で
す。建設工事などもいつまでに完成という目標があって、計画に落とし込んで
いくわけでしょう。
受験にも、試験で何点取るとか、どの学校に入るとか、目標はつきものです。

このように、目標を設定し、そのための計画を立てて実現する、ということに
慣れると、人は自分自身にも目標を課すようになります。しかし、これには向
いた人とそうでない人がいます。ある程度能力があって、高めの目標を何度か
クリアした経験がある人は、達成感で脳内ホルモンを出すので(笑)、クセに
なります。
そして、決定的な挫折を味わうまでは、そのパターンを続けます。
無理な目標を立てて、失敗すれば、プライドが傷つき、挫折感に苦しみます。
また目標を達成し続けても、ビジネスで成功したのはいいけれど、家庭が崩壊
したとか、身体を壊したとか、信じていた人間に裏切られたとか、人が信じら
れなくなったとか、そういうこともよくあります。

要するに、うまく行っているときは、ハタから見て羨ましいように思えても、
楽でもないし、リスクもあります。そういうパターンで大成功した人はそのと
き注目されても、敗者になったときには誰も見向きもしません。

願望実現とか、成功哲学、「○年で○億円貯める」というような本が世の中で
は流行っています。
じっさい、一つの願望を実現することは、他のことを犠牲にすれば難しいこと
ではありません。

一つの教訓的エピソードをお話しましょう。

僕はかつて、ある理由で、仙道(仙人になる道です)の修行者に会ったことが
あります。この人は他人の願望を一つなら叶えることができる、と豪語してい
ました。
そして、ある男の願望を叶えた話をしてくれました。
「その男は美しい女に恋をしたが、相手は振り向いてくれない。それで、私に
『どうぞ、彼女と一生結ばれるようにしてください』と言ってきた。それで願
いを叶えた。願望は実現して、それから二人は離れられなくなったが、今では
お互いに激しく憎み合っている。それでもこれからも一生離れることはできな
い」
要するに、憎みながらも別れられない、典型的な腐れ縁になってしまったわけ
です。
なんとかしてやればいいのに、と思いますが、そのことは置いといて、これは
最近よく言われる「願望実現」ということの一つの本質を表している話だと思
うのです。
あるいは、男が「彼女と一生『幸せに』いっしょにいられるようにしてくださ
い」といえばよかったのかもしれません。しかし、それは、ひょっとして願望
を『一つだけ』叶えるというルールに抵触したのかもしれません。
この仙道の修行者との会見はそのときの事情で慌ただしく終わり、その場限り
で二度と会うことはありませんでしたから、それ以上に詳しくは聞けませんで
した。

この話のようなわけですから、読者の皆さんが神様や何やらにお祈りするとき
は、言葉をよく選ばなければいけません。また願望実現の哲学やらを実行する
ときも同様です。
言葉は呪文だから正しく使わなければいけない、と僕がいう理由はここにあり
ます。

目標というのは、いわゆるミサイルが標的をロックしたような状態にすること
なので、目標以外の要素を排除することで勢いがつくことは間違いありません。
その点によく気をつけるべきです。

では、「目的」はどうでしょう?
「人生の目的は何か」は、誰でも一度は考える疑問です。
たまたまどこかで、そういう話題になると(そういう話したことありますか?)、
僕の周囲には必ず「人生の目的を知ること自体が目的だ」という人がいました。
これは、ただのひねった逆説のように見えて、案外真実を衝いているように思
います。

この場合の目的は秘められているのです。目標の場合は明確にされ、むしろ高
々とどこかに掲げられもしますが、目的はまずそれ自体を見いださなければい
けない。
目的を達成することではなく、目的を発見していくプロセス自体にも意味があ
るのです。

では、どうしたら、目的を発見できるのか。
これも目標とは正反対なのです。
目標が人為的に設定し、意志力で実行していくものであるのに対して、目的は
ふっと力が抜けたとき、いちばんその人にとって自然な状態に戻ったときに、
見えてくることがあるものです。

そして、目的は求心的です。試行錯誤して揺れ動きながら中心を求めていくよ
うな動きになります。目標の場合は、1億円貯めようとしたら、3億円貯まって
しまったというようなことがある。目標は達成することがある。しかし、目的
はそうではないのです。

目的を追求することは、中心を求める運動です。中心に向かって意識が収斂し
ていく。それなら、ある距離だから、あっという間に届いてしまうと思うかも
しれないけれども、そうではないのです。

意識が限りなく中心に近づいたように見えたとき、本人には世界がよりズーム
で見えてくるのです。そして、その倍率で見ると、中心からはまだまだ遠い。
その運動をより求心的にしていくと、さらに微細な世界がズームされて現れて
くる。こうして芯の芯へと近づいていく無限運動があるのです。

ハタから見ると、ほとんど芯と同じように見えるのだけれども、本人にとって
はまだ限りなく追求する余地がある。
こういう状態が技芸では、入神の域、ということになります。
神という字も「しん」と読みますが、芯の芯の芯の……永久に先にあるものが
神なのです。

物質的な基盤でものを考えている人からみれば、このような目的概念は、抽象
的であり、架空の虚しいもので、物質的な目標こそが確実な実体に思えるでし
ょう。しかし、質問者の方がいうように、物質的なものは確実に死によって無
に帰するのです。
しかし、この目的概念は、最初から物質的なものに基準を置いていませんから、
物質的な死を超越しています。
最近は『オーラの泉』という番組が大人気で、前世や、転生という概念を自然
に受け入れる人が増えているかもしれません。しかし、このような目的概念が
なければ、理解はただの興味本位で終わってしまうでしょう。

人生の外的な目標と、内的な目的。これは正反対のものなので、混同してはい
けません。表現者は目標ではなく、目的に生きるものです。


僕は文章のことを書いているので、「小説家になりたい」という願望をもった
人に会うことがしばしばあります。そのときに、うまく説明できない「困った」
感じがありました。この回答を書いてきて気づいたのですが、この「小説家に
なりたい」は目標であって、目的ではないのです。「小説家になりたい」と言
われて、なんか挨拶に困る感じがしたのは、相手の小説が下手だからとか、才
能がないからではなくて、それが目標だったからなのです。
それは、「一億円貯めたい」とか、「野球選手になりたい」とか、「東大に入
りたい」とかと同様の「目標」なのです。
これに対して「どうぞ、がんばってください」とは言えますが、それはその人
の中で完結した欲望の凝り固まった形でしかありません。
誰のために、何のために、どういう小説を書きたいのか、という具体性があっ
て、ようやく「目的」の探求は始まるのです。

目的の求心的運動をセンタリングといいます。カウンセリングや身体技法など
でも使う言葉です(言葉は同じですが、ここで説明しているのは僕の独自の概
念です)。
目標は量であり、目的は質です。
目的には、人を動かしたり、人とつながる理由やきっかけがありますが、目標
にはそれがありません。
目的にはオリジナリティがありますが、目標にはありません。だから、みんな
同じでつまらないのです。

目標を立てて400字1万枚の原稿を書いても、センタリングしていなければ、そ
のエネルギーは散逸してしまいます。
しかし、センタリングの方向感さえつかめていれば、人と会話をしていても、
新聞や本を読んでも、一枚の木の葉が舞うのを見てさえ、小説が書けるように
なります。
作品はかんな屑で、本体は削られていく自分自身の作家性にある、ということ
をかつて書きましたが、いま、より深い意味をおわかりになるだろうと思いま
す。

どうぞ、この二つの違いをよく考えてみてください。

SNSやブログの日記を見ていると、このセンタリングの感覚がわからない人が、
精神的に「落ち込んだ〜」というようなことをよく書いています。
興味深く観察しているのですが、こういう人は少し回復してくると、「自分に
はこういう悪いところがあった。だから、今度はこうしよう♪」というような
目標が書いてあります。
でも、しばらくすると目標を満たそうとするのに疲れて、「やっぱりだめだ
〜」、「私はダメなヤツかも…」、「また落ち込んだ〜」と必ず書いてあって、
元の木阿弥です。
同じサイクルをぐるぐる回っているのに、本人は気づかない。
どんな体験をしても、センタリングという形で本人の財産になっていかないの
です。
こういう人に助言したこともありますが、たいていは無駄です。本人がすでに
そのサイクルを自己合理化しているケースがほとんどです。

センタリングのプロセスというのは、立ち止まって「WHY?」と問うことから始
まります。「HOW?」「WHAT?」だけで「WHY?」から目を背けている限り、おな
じ地点をグルグルと回るだけです。
しかし、立ち止まることがコワくなってしまった人々は、次々に新しい「HOW?」
「WHAT?」を求め続けるのです。

思わず説明が長くなりました。
そういう大前提をまずお話した上で、質問にお答えするなら、さほど難しいこ
とではありません。要するに書きたい衝動を感じるなら、そのときに書けばい
いだけのことです。
書きたいと思わないなら無理に書く必要はありません。

要するに、小説家になるとか、本を出すとか、誰かにほめられるとか、そうい
う結果から逆算して書くのではないのです。書きたいから書く。書かずにいら
れないから書く。書いたほうがいいみたいだから書く。
もちろん書いた結果は、作品になるわけですから、それが別の生命を持ち始め
ることはあるわけです。

書く課題というのはまた別の話です。これは書きたい衝動とはイコールではあ
りません。きっかけに過ぎません。課題なんてどこでも見つかります。
たとえば、『広辞苑』を何も考えずに開いて、最初に眼にした言葉を書き出し
か、タイトルにするとか。そういう縛りを決めればいいわけでしょう。
まず、そういう偶然の縛りを課題にして書いてみることです。
そういうことに慣れれば、新聞を開いて、気になった記事から思いついたこと
を書き出してもいいし。
自分の気に入らない小説の正反対の物語を小説にしてもいい。
古いハガキや、名刺を見て思い出すことから書いてもいい。
タロットカードを引いて、それをきっかけにしてもいい。
トランプの絵札の顔が、スペードやハートで違う。その差はなんだろう、と想
像するところから始めてもいい。
電車やカフェで隣り合った人の様子や、会話から始めてもいいのです。
そういう小さなきっかけから書くことを見つけられるようになれば、何でも自
由自在に、魔法のように書くことができるようになります。

人の考えというのは、言葉でできています。言葉の使い方がよくないと、正し
い結論に至りません。そんなことなら、余計なことは考えないで、感じたこと
を大切にしたほうがいい。
ところが、人工的な環境の中で自然と接点を持たずに生きている人は、自分が
何を感じているか、ということさえわからなくなってしまうことがよくありま
す。
いま、まさに自分が何かを感じているのか、自分の中にある既存の言葉が鳴っ
ているだけなのか、それを見分けなくてはいけません。
それが表現者としての修行であり、すべての基礎になります。

そういう修行の中で、自分の言葉を磨き上げてください。



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●質問募集●

えー、皆様。村松恒平です。
質問は全てウェルカムです。

些細な質問/巨大な質問/マニアックな質問/初歩的過ぎる質問/鋭い質問/
鈍い質問/くだらない質問/実際的質問/哲学的質問/個人的質問/普遍的質問/
珍しい質問/陳腐な質問/具体的な質問/抽象的な質問/短い質問/長ーい質問

などなど、あらゆる質問をお送り下さい。 oshiete@hiden.jp

冒頭に「●質問●」と書いてください。
質問は無料です。送られてきた質問は、無記名とさせていただきます。
都合により、長さ、表現などをアレンジする場合があります。
また村松の著作などに流用させていただく場合があります。
ご承知おきください。

この企画の成否はひとえに質問にかかっております。
よろしくご支援のほどをお願いいたします。

●感想等は、こちらにお送りください。お待ちしております。 fan@hiden.jp

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       文章上達<秘伝>スクール 通算210号 2007/2/28 発行
 講師兼編集責任者:村松恒平
 発行:文章学校 http://www.hiden.jp/
 Copyright (c) 2001-2007 村松恒平 All Rights Reserved. 禁複製。
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