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希望と挫折をテーマに大人の童話として書いてみました。
健康的でアイロニーにとみ、ブラックユーモアとか大人のユーモアです。
原稿用紙4,5枚程度の短くて肩のこらない物語です。
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 わたしは夕暮れ時のニューヨークの街を歩いていた。

 物珍しさもあって、あちこち見て歩いているうちに道に迷い、薄気味悪い路地裏に出た。

 すると、錆び付いた崩れかかったビルの前から一人の男が近寄ってきた。

「何か捜し物でもしているのですか」

 丁寧な口調で尋ねてくる。

 わたし一瞬びっくりしたが、からかってやれと思い、

「夢を探しているんです。それもバラ色の夢を」

「よろしい。その夢が叶う夢を貸してあげましょう」

「そんな馬鹿な夢など借りられるわけないでしょう」

「あるんですよ」

  

 男は

「あなたの絶望をわたしの夢銀行に預けてくだされば、夢をお貸しします。それを元にして大きな夢をつかんでください。そのかわり利子は高いですよ。いいですか」

 嘘くさいが乗ってみない手はない。

 それに絶望なんて腐るほどある。

 男は名刺をくれ、明日ここに来てくださいと地図まで書いてくれた。

 わたしは翌る日、その夢銀行に行くと、黒い部屋から彼が出てきて、用紙を渡された。

 わたしは融資欄に夢と書き、抵当欄に絶望と書くだけで良かった。

 こんなことで夢が叶えられるなら、それに超したことがない。

 何が何だかさっぱり分からないが、これも異国でのアバンチュールと思いその夢銀行を出た。

  

 そして、わたしはそんなニューヨークでの出来事をすっかり忘れていた。

 ところが、それから一年後幸運にも懸賞小説に当たり、売れっ子の作家となった。

 宝くじも一千万円当たった。

 その上、絶望や挫折がなくなり、毎日リッチな生活が送れるようになった。

 何でこんなに急に人生が明るくなったのか分からなかった。

 

 

 それから二年後、思いもよらずあのニューヨークの夢銀行から黒封筒に入った手紙が来た。

――あなたから預かった絶望に莫大な利子が付き、どうしようも出来なくなりました。あなたの絶望と言う不良債権を処理しないとわたしは首になります。今ちょうどいい機会です。あなたの残りの人生で実現する夢と現在預かっている絶望と言う債権が差し引きゼロになります。今なら元の生活に戻れます。用紙を同封しておきますのでサインして送り返してください。もし、用紙を破棄したり、放ったらかしたりされますと、とんでもないことが起こりますので、くれぐれも用紙にサインして送り返してください――

 そこで初めて、こんな幸運が続いたのは夢銀行のせいだったと気付いたのだ。

 嘘じゃなかったんだ。

 でも、まだ信用できません。

 わたしは今の生活を捨てることが出来なかったので、それを無視して用紙を燃やしてしまった。

 

 

 すると、翌る日から小説が書けなくなり、銀行のキャッシュカードの暗証番号を盗まれ、気付かないうちに二千万も三千万もおろされ、挙げ句の果てに交通事故に遭い、半身不随になって病院のベッドの上で暮らすようになった。

 その上、夢銀行の男から貸した夢を返せと毎日黒い封筒が届いた。

 が、わたしにはもう返す夢も金もなくなっていた。

 使い切ってスッカラカンだ。

 あるのは絶望だけ。

 わたしは欲に目がくらみ、夢銀行の男の忠告をことごとく無視した結果の、このざまだ。

 わたしのベッドの周りには黒い封筒が山と積まれ、その黒い封筒に押しつぶされそうになり、あまりの恐ろしさに、

「助けてくれー!」

 

 

 大きな声でうなされていたので妻が起こしてくれた。

 わたしは全身びっしょりと汗をかいていた。

 夢で良かったと胸をなで下ろした。

 それにしても人との約束は守るものですね。

 



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 私はニューヨークの夜の街を五番街から六番街へとあてもなく歩いていた。

 そこで小さな酒場を見つけたので、危ないとは思ったが入ってみた。

 薄暗くてアメリカ人特有の体臭であるタマネギが腐ったような臭いが充満していた。

 店内には十二、三人の黒人が酒を飲んでいた。

 やばいな、と思ったが今さら引き返せない。

 正面のちょっとした舞台ではスポットに照らされて年老いた黒人がブルースを歌っていた。

  

 そのブルースは明るいようで暗く、希望があるようで絶望的で、綺麗なようで汚い、醜いようで美しい、泣いているようでもあり笑っているようでもある。

 とにかく相反する理念がブレンドされた凄い歌だ。

 魂が揺さぶられる。

 これこそ本物のブルースだ。

 私にはこの年老いた黒人がまるで少年のように見えた。

 幸い店内は平和なムードが漂っていて、人に危害を加えるような雰囲気ではない。

  

 私は呆然と立ちすくみ、ただただ聴き惚れていた。

 歌い終わった黒人が何を思ったのか私に近寄ってきて、

「日本人かい」

 微笑んで尋ねてきた。

「そうだ」

「どうだったおれの歌は」

「あなたは凄い。アメリカにはそんなに上手い人が沢山いるのか」

 私はさすがにアメリカだけあって、彼のような歌手が沢山いるに違いないと尋ねてみた。

「NO! おれだけさ」

「そう。それにしても凄いね。何故そんなに心を揺さぶる歌が歌えるんだい」

「おれの体の中には湧き水があふれているからさ。たいていのミュージシャンは体の中に川が流れていたり、海が存在したりする。そんなアーチストは沢山いる。でも本物のアーチストは心に湧き水があふれている。湧き水は純で美しい。だから人の心を打つ。その水を何て言うか知っているかい。創造水と言うんだ」

  

 私はただただ感動してその店を出た。

 その黒人が店の前まで送ってくれて、

「君もアーチストだろう」

 手を握ってくれたが私はただ黙って微笑んだだけだった。

 ニューヨークの夜の風が冷たい。

 私はポケットに手をねじ込み歩きながら、私の心の中には川が流れているのか、それとも海が存在するのか自問してみた。

 もし、私の心の中に川や海が存在していれば、ただの物書きで、湧き水があふれ出ていればあの年老いた黒人のように有名ではないが、人の心を打つ詩が書けるのにと思った。

  



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 小学生の頃私は野いちごや野ぶどうを家の近くの野道で取って、よくおやつ代わりに食べていた。

 そんなある日、野いちごを取って食べていると、見知らぬ外人が近寄ってきて、

「その実を食べると長生きできるのか」

 片言の日本語で聞かれた。

「分からない」

 と答えると、

「そんな実は知らないか?」

 とも聞かれたが

「知らない」

 と言って、外人と一緒に野いちごを食べた。

  

 聖書によると人間創世の時代は、人間は八百年から九百年生きていたらしい。

 それも何かの草木の実を食べるとそんなに長生きできたらしいのだ。

 ところがある日、人間は何をしたか知らないが、神の怒りに触れ、神はその草木を地上から抹殺したと言う。

 ところがその草木の実を一粒だけ残し、地球のどこかに投げ捨てたと言われている。

 そして人間はいくら長生きしても百三十歳、平均寿命で八十歳前後と決めたらしい。

 これは実に興味深いことである。

  

 今から三千年や四千年前は人間の命は五十歳もなかった。

 ところが現在はどうだ、長生きすると百三十歳、平均寿命も八十歳前後である。

 聖書の予言が当たっているのである。

 それから推測すると、人間創世の時代本当に人間はその草木の実を食べると、八百年も九百年も生きられたに違いない。

 その上、そんな草木の実も実際にあったはずだ。

  

 私は気晴らしに高速道路を愛車マークツウでぶっ飛ばしていた。

 そして小学生の頃、野道で出会った外国人を思い出した。

 彼は昔々のその昔、神が地球のどこかに投げ捨てた草木の実を探して、世界を放浪していたのじゃないかと推測した。

 彼はその草木の実が世界のどこかで、たわわに実をつけているのを発見し、その実をもぎ取って食べ、未開のジャングルの中で暮らしているかも知れない。

 そして、何百年が経ったある日突然大都会のニューヨークか東京に現れ、人間の生きた化石として注目されるかも知れないのだと。



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 私が香港からマカオに渡った日、フェリーの中でマカオの小さな子供が大事そうに紙袋を抱えて、私の座っている前に来て、ジーッと私を見つめ不思議そうな顔をしていた。

 無垢な目で見つめられて戸惑いを感じた私は持っていた菓子をやると、その代わりに子供が持っていた袋の中から、グロテスクな球根を取り出し無言でくれた。

 何の球根かも分からないが、キットきれいな花が咲く球根に違いない。

「ありがとう」

 子供は菓子を持って黙って母のいる場所へと走っていった。

 私はその時何故か知らないがなくなった父のことを思い出した。

  

 私の父は頭が良くて達筆で若い頃は男前でおしゃれだった。

 父は花に例えるならさしずめ美しい花を咲かせる球根だった。

 咲けば誰からも羨ましがられる球根だった。

 しかし、芽を出し花を咲かすことはできなかった。

 父という球根は水も肥料も手入れも良かった。

 ただ、天候という自然現象が花を咲かす条件ではなかった。

 そう、あの太平洋戦争という異常現象のために土の中で球根は死んでしまったのだ。

 戦争さえなければ、私達一家はごくごくありふれた平凡な生活を送っていたが、戦後極貧の生活をしていた。

 破れたガラス窓。

 綿だけの布団。

 芋粥。

 破れた服。

  

 私はマカオの子供にもらった球根を庭に植えた。

 きれいな花が咲くことを信じていた。

 水をやったり、肥料をやったり、毎日毎日球根の植わっている土を見つめていた。

 天候が良ければ良いで心配し、雨が続くと心配し心が休まらなかった。

 幸い異常現象は襲ってこないようだ。

  

 マカオは二十世紀末にはポルトガルから中国に返還される。

 あの球根をくれた幼い子供はきれいな花を咲かすことができるのかと、秘かに私は心配し、マカオに関する記事が新聞に載っていると、どうなるでもないのに必ず読む。

 キット美しい花を咲かせることを祈りつつ、遠い日本からマカオの見知らぬ子供にエールを送る。





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