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2008/08/23

●●関学先端研メールマガジン [ 第5号 ]  2008/8/23

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       関西学院大学 先端社会研究所

       http://asr.kgu-jp.com/

       関学先端研メールマガジン

      □■第5号■■(2008/8/23) ■□


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 −目 次−


■ エッセイ(5) 「相対的に縮んで」(Ralf Futselaar)
■ 終了したイベントの報告
・   「大学と市民をつなぐ学問の可能性」シンポジウムを聞いて(渡邊勉)
■ 自著を語る「Behind the Drama of Filipino Entertainers in Japan」(武田丈)
■ 先端的な社会研究を考えるためのブックガイド「国民国家を越えるローカル」
                                                                 (内海博文)
■ 編集後記

 
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│  ■ エッセイ(5) 「相対的に縮んで」
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 これは別に私が努力して手に入れたものでもなく、自慢すべきことでもないのだが、
私は自分の背が高いことを楽しんできた。これまで日本に滞在した14ヶ月の間、私は大
概の人々の頭を見渡し、いつも遠くまで眺めることができたし、また私はいつも群集の
中で人目につく存在だった。しかしながら研究滞在のためにオランダに戻って、この10
年の間に私よりもずっと背が高い人々が登場していることを思い知らされた。学生時代
に行きつけのパブに足を踏み入れた時、私はその場に居合わせた人々の中で最も背が低
いことに気づいた−私と同じぐらいの背丈で、同世代の、店の女主人を除いては。

 この事実は私が日本に来てからずっと探求してきた問題の1つに直面させるものであ
る。なぜ人間はある世代から次の世代に移行するに連れて背が高くなるのか、そしてそ
のことは私たちの健康や社会に対して何を教えてくれるのか?つい最近まで、私を含む
多くの人々は、身長というものは若い頃の社会的、経済的状況を明白に示す痕跡である
と信じていた。アフリカの奴隷であれ、ヨーロッパの小作人や兵士であれ、そして日本
の学童であれ、記録に残された身長は、資本主義、福祉国家、奴隷制やジャンクフード
が現代社会に影響を与えているという抗し難い議論を提供しているように思われた。

 しかし今や、想定されていたこのような関係は実際のところはるかに複雑であり、生
物学的な測定は以前思われていた(少なくとも私には)ような万能薬ではないことが明
らかになっている。現在の関学の学生の平均身長は10年、20年前の学生に比べて数セン
チ高いにも関わらず、彼らのライフスタイルは、ビデオゲームの経験が向上したことを
除いては先輩たちの世代とそう変わっていないように見える。実際彼らの身長が伸びた
ということは、ここ1世紀に渡って日本に存在してきた自律的な傾向の一部であるように
思われる。

 そしてもちろん、これは日本だけのことではない。あらゆる先進諸地域において身体
は変容しつつある。長期的に見れば、人種、文化、地域とは明らかに無関係に、現代の
世界中の男女の体格は近づいてきている。そこから外れているのは、主にアフリカに存
在する最も貧しい地域だけである。この進展は理解しにくいものだし、医学、社会科
学、歴史学などの素地を持つ人々が共同で研究に取り組まねば決して理解できないもの
だろう。このことは、私が今回オランダに研究滞在したいと思った理由の1つとして、
始めから考えていたことだった。

 しかし私はこの仕事の中で心を乱されている。高校の横を歩いている時、キリンのよ
うに背の高い少女たちが大またで通り過ぎ、今や困ったことに小柄な中年になってし
まった私を見下ろしているということに。もう1つ心を乱される(そしてちょっと困っ
た)のは、電車の中で足の余裕のある良い座席が、私より10歳ばかり若いが20センチば
かり背の高い巨人によっていつも占められていることである。そして私が全く憂鬱な気
分にさせられるのは、私のサイズが最早XL−14歳の時、このサイズに達した私はとて
も嬉しかった−ではなく、Lでしかないということである。

 もちろん日本に戻ることはこの気持ちから脱する役に立つだろうが、それもほんの束
の間だろう。この4月に入学した1回生は背が高かったし、来年は更に目を見張らせるほ
どになるだろう。長期的に見れば、いつまでも相対的に背が高いという状態を保ち続け
られる人はほとんどいない。数十年たてば、日本の若者は巨大になるだろう。その時ま
でにはその理由について、今より少しは理解していたいものだ。


Ralf Futselaar(関西学院大学先端社会研究所専任研究員)
(原文は英語、訳=岩佐将志)



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│  ■ 終了したイベントの報告
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関西学院大学先端社会研究所創立記念シンポジウム「大学と市民をつなぐ学問の可能
性」を聞いて


 嘉田滋賀県知事の報告は、たいへん興味深いものであった。長い間携わってきた琵琶
湖調査の内容を示しながら、人々の生活に根ざした水と人との関わりを、具体的かつわ
かりやすく解説していただいた。特に、過去の写真から過去の出来事や生活を掘り起こ
していく調査や、市民を巻き込む「ホタルダス」のような調査は、大変興味深いもので
あった。

 今回のシンポジウムからは、私自身多くの示唆をえることができ、大変有意義なシン
ポジウムであった。それゆえ、シンポジウムの内容に触発されていくつか考えさせられ
る点もあった。

 第一に、我々研究者の位置取りの問題である。市民、行政、大学が連携していくとし
たら、研究者あるいは大学は、当然市民、行政に対して完全に中立的な立場から研究を
したり、提言したりすることはできないだろう。また中立的であることが必ずしもいい
とは限らないかもしれない。そのとき、我々研究者はどのような立場で、市民や行政と
連携していけばいいのか、明らかにする必要があるのではないか。ただそこで重要なの
は、行政とは誰か、市民とは誰かについて、きちんと議論しておく必要があるというこ
とである。市民や行政に対して、研究者は何ができるのかと考えたとき、市民や行政が
だれであるのかがわからなければ、どのような連携、貢献ができるのかわからない。

 第二に、ミクロな視点とマクロな視点の問題である。今回の嘉田知事の報告は時間の
関係で、詳細な話を伺うことはできなかったが、知事職という立場は、全体を俯瞰する
立場から政策を実施していく必要があるだろうから、当然マクロな視点が必要となる。
ただ知事がこれまでおこなってきた調査はミクロな視点による詳細な調査であった。数
量主義に代表されるマクロな視点に対して、知事は批判的であったように感じられた
が、実際にミクロな視点とマクロな視点をどのように調整して、実際の政策実施につな
げているのかが、「市民と大学を架橋する」というテーマを考えたとき、重要な視点で
あると思われる。社会学における調査研究の利点は、ミクロな視点、生活者の視点に
立った調査が可能であるという点であろう。しかし、それを実際の政策に転換してい
く、あるいは市民や行政に貢献していくためには、ミクロな視点をいかにしてマクロな
視点につなげていくかが大きな課題であると思われる。

 第三に、第一、第二の点にも共通しているが、具体性が必要であるということであ
る。「市民と大学を架橋する」というキャッチフレーズはとても心地よいが、具体的に
何ができるのか、何をすればいいのか、について我々は考えなければならない。議論も
必要であるが、結局は実践の問題であるのではないかと思われる。実際に「市民と大学
を架橋する」試みをおこなっていく中で、市民、行政、大学の間のよりよい関係を構築
していくことができるに違いない。


渡邊勉(関西学院大学先端社会研究所副所長)



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尚、上記シンポジウムは以下の通り開催されました。


日時:7月13日(日) 13:30-16:30 (13時開場)
場所:関西学院大学上ヶ原キャンパス
   人間福祉学部G号館202号

プログラム:
 13:30-13:45    挨拶 荻野昌弘(関西学院大学先端社会研究所所長)
 13:45-14:45    基調講演 嘉田由紀子(滋賀県知事、元京都精華大学教授)           
 15:00-16:30   パネルディスカッション
          嘉田由紀子
          高坂健次(関西学院大学社会学部長)
          芝野松次郎(関西学院大学人間福祉学部長)
          司会: 古川彰(関西学院大学社会学部教授)




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│  ■ 自著を語る−「Behind the Drama of Filipino Entertainers in Japan」
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21世紀COEプログラムの研究成果として、先頃「Behind the Drama of Filipino 
Entertainers in Japan」(Joe Takeda & Marilyn T. Erpelo(編)、2008年、Batis 
Center for Women, Inc.)が出版されました。ここでは本書の編者の1人である関西学
院大学の武田丈准教授による紹介を掲載いたします。


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本書は、日本からさまざまな問題を抱えて帰国したフィリピン女性移住労働者(エン
ターテイナー)たちを支援する現地のNGOバティス女性センター(Batis Center for 
Women)との2001年から現在までの共同研究の成果をベースにした、フィリピン女性エン
ターテイナーたちが直面する問題に関する啓発書です。

私とこのバティス女性センターとの出会いは、セレンディピティ(serendipity=幸運な
発見)なものでした。2001年春に関学の学生団体上ヶ原ハビタットのワークキャンプ引
率のために始めてフィリピンを訪問した際、滞在最終日に偶然立ち寄ったのがバティス
でした。当時、私は日本で生活する外国人支援の活動や研究に携わっていましたが、
フィリピン訪問の際に研究トピックを探そうとか、研究パートナーを探そうとは全く
思っていませんでした。しかし、このセレンディピティな出会いにより日本が深く関わ
るフィリピン女性たちの問題を知った私は、自分の研究や活動の方向を次第に変えて
いったのでした。

帰国した私は、その年の秋にバティスのエンターテイナーたちのライフストリーリーを
ベースにした啓発演劇団を関学に招いて公演してもらったり、関学生をバティスでのイ
ンターンシップに送り出すようになりました。こうした交流を通して、2005年には関西
学院大学出版会から『フィリピン女性エンターテイナーのライフストーリー:エンパ
ワーメントとその支援』(武田丈編著)を出版することとなったのです。本書は、この
関西学院出版会からの日本語の本をベースに、2005年8月から11月にかけて現地で行った
バティスの「女性エンパワーメント事業」の評価研究の成果を加えて、フィリピンで英
語で出版したものです。

したがって、第1部ではフィリピンの海外出稼ぎ事情を概観し、第2部で過去30年間にわ
たって日本が合法的にエンターテイナーを受け入れてきた現状を、リクルート、エン
ターテイナー、日本定住、フィリピン帰国という4つのステージに分けて、4人のライフ
ストーリーを紹介しながら紹介します。第3部では帰国した女性たちに対する支援を紹介
し、第4部では「女性エンパワーメント事業」の評価研究の成果をまとめています。

2005年3月、日本政府は米国政府からの指摘を受け、エンターテイナーたちへのビザ発給
を厳格化し、現在では一見こうした問題はなくなったかのようにも思われます。しか
し、まだまだフィリピンには、後遺症として性的虐待、搾取、DVなどによって精神的
な問題に苦しむ女性たち、子どもの認知や養育費に関する問題を抱える女性たちがたく
さんいます。皆さんのこの本とのセレンディピティな出会いが、この問題への世界的な
関心を高めるきっかけになってくれること願っています。

なお、本書は日本で販売していないため、入手ご希望の方は武田丈
(jotakeda@kwansei.ac.jp)まで連絡をいただければ幸いです。



武田丈(関西学院大学人間福祉学部准教授)




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│  ■ 先端的な社会研究を考えるためのブックガイド
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本コーナーでは毎回、新たな社会現象を取り扱った文献、斬新な視点が見られる文献な
ど、研究対象や視点に先端性が見られる社会科学系の文献を紹介してゆきます。
今回は特別に2冊を同時に取り上げます。


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「国民国家を越えるローカル」

(1)高松平蔵、2008、『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか──小さな街の輝くクオリ
     ティ』学芸出版社。
(2)嘉田由紀子(語り)・古谷桂信(構成)、2008、『生活環境主義でいこう!─―琵
     琶湖に恋した知事』岩波書店。


(1)はドイツ在住のジャーナリストである高松平蔵氏が、ドイツの地方都市エアランゲ
ンを素材に「都市の質」を問うた著書である。(2)は写真家である古谷桂信氏が、社会
学者であり滋賀県知事でもある嘉田由紀子氏のライフヒストリーから、嘉田氏の掲げる
「生活環境主義」とそれに基づく政策を紹介した著書である。

2つの著書が取り上げている題材はかなり異なる。にもかかわらず2つを同時に取り上げ
るのは、それらが、現代における「地域」ひいては「ローカルなもの」の特徴を見事に
描写していると思われたからである。それは次のような記述に見え隠れする。高松氏が
エアランゲンについて、「街があたかも人格を持っていて、自らを語り出すような印象
を受ける」と述べるときや、嘉田氏が「一つの法人的な性格をもち、土地や建物をも所
有」する「江戸時代の村」ないし「村落共同体」を一つのモデルに滋賀県の地方自治を
語る際に、である。20世紀の社会理論においてはしばしば国民国家という全体に包含さ
れる部分集合として記述されてきた「地域」が、これら2つの著書では、国民国家に対す
る相当程度の自律性を備えたいわば全体として描かれる。同心円的な構図(世界/国民国
家/地域)のなかの「地域」ではなく、国民国家を「越える」地域ないし「ローカルなも
の」が、これらの2つの著書で記述される「ローカルなもの」の現在である。

「ローカルなもの」が国民国家を越えつつあるのは偶然ではない。グローバル化にとも
なう国家の機能変容に加え、寿命・教育・経済的収入の画一的改善といった、国民社会
レベルでの対応では解決できない多様な問題の出現は、それぞれの問題解決に相応しい
最適規模の「社会」として、「地域」をはじめとする「ローカルなもの」をあらためて
浮上させつつある。むろんこの「ローカルなもの」は、規模の小ささをもって適切な作
動を保証されているわけではない。「地域」であれ「学校」であれ「施設」であれ「N
PO」であれ、今後の「ローカルなもの」の運営には、国民国家の部分集合とされてき
た時代とは、ときに徹底的に異なる思考や行動の様式が必要になる。また「地域の時
代」がただのかけ声で終わらないためには、国家から「ローカルなもの」への決定権限
や財源の委譲といった制度的変更も不可欠である。「ローカルなもの」の運営のための
ヒントとして、高松氏はたとえばエアランゲンの政治的自治、「フェライン」と呼ばれ
る非営利団体、独自の経済戦略や文化政策、情報コミュニケーションや地域ジャーナリ
ストなどの有機的なつながりに触れ、嘉田氏・古谷氏は、琵琶湖における歴史的な「人
と湖のかかわり」、琵琶湖研究所などをハブとした住民自身の手による「ホタルダス」
調査、水環境カルテ調査、水辺の遊び調査、今昔比較写真、石けん運動や菜の花プロ
ジェクト、そしてそれらを通じた地域の「自助」「共助」に言及している。

分野やテーマ、そして立場にかかわらず、国民社会に代わる現代「社会」の主役の一つ
へと躍り出てきた「ローカルなもの」に関心を持つ人であれば、数多くの刺激を2つの著
書から受け取れるはずである。ぜひ一読をお勧めする。


付記
高松平蔵さんのサイト「Inter Local Journal」(http://www.interlocal.org/



内海博文(追手門学院大学社会学部講師/関西学院大学先端社会研究所兼任研究員)




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│  ■ 編集後記
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 先端社会研究所の開設記念シンポジウムには多くの方々にご来場いただき、ありがと
うございました。本研究所では次の大きな企画として「先端研ウィーク」を10月に開催
することを計画しています。ここでは第2回目のシンポジウムを初めとして、学生や一般
市民の方々が気楽に参加できるさまざまなイベントを数日間に渡って行う予定です。開
設記念シンポジウムのテーマであった「大学と市民をつなぐ学問の可能性」を探る試み
はこうして引き継がれてゆきます。
 なお、夏休みが間に入ったため今回のメールマガジン発行は8月下旬となりました。次
回は9月中旬発行の予定です。

岩佐将志(関西学院大学先端社会研究所専任研究員)



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□発行 関西学院大学先端社会研究所
 

所長 荻野昌弘(関西学院大学社会学部)
事務室 関西学院大学先端社会研究所事務室
〒662-8501 西宮市上ヶ原一番町1-155
Tel:0798-54-6085   Fax:0798-54-6089
HP:http://asr.kgu-jp.com/

□メールアドレスの変更、その他のお問い合せ、配信停止の希望は
 → kgcoemm@gmail.com (担当 岡本)まで。
 

□尚,このメールマガジンの最初あるいは最後に挿入されている広告と
 本研究所は一切関係がありません。

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