【脱サラシェフの小さなレストラン開業物語】- 第82話 -
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脱サラシェフの小さなレストラン開業物語 Vol. 82
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こんにちは、脱サラオーナーシェフのニコラ・岩田です。
私のお店は席数20席そこそこの小さなレストランですが、開店してから約6
年、テレビや雑誌で取り上げられたり、知名度もそれなりに上がって、今では
当店の料理とサービスを楽しみに通ってくださるお客様も多くなりました。
実は私、脱サラなんです。
この仕事の以前は商社マンでした。
そんな私がどうやって華麗な転身を計り、小資本でお店を起ち上げ、星の数ほ
どある飲食店との熾烈な競走の中で勝ち残ってこられたか?
このメルマガは、サラリーマン時代からこれまで、私のたどった道を包み隠さ
ずお話しすることで、自分自身の歴史をまとめ上げると同時に、同じように小
資本でレストランを開業したいと考えている独立志向のみなさんの、道しるべ
になることを目的としています。
独立開業のノウハウ本には書かれていなかった、実践的なアドバイスを展開し
ていきますのでお楽しみに。
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顧客満足って・・・
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接客業をやっていると、いろいろなお客さんにいろいろなことで翻弄されて、
開業当初はそうした気苦労が、店の運営までをも左右し兼ねないですよ、とい
うテーマで前回から書き始めました。
すでに開業前からにわかフードビジネスコンサルタント(友人知人)が自分の
周りに寄ってきては、無責任なコンサル、アドバイスを展開してくれたわけで
すが、果たしてようやく開業にこぎ着けたあと、今度は見ず知らずのお客様相
手に、それ以上に神経をすり減らすことになるのです。というか、これが飲食
店を始め接客業と名のつく商売をやる上での宿命的なストレスの一つになるん
ですよね。
そもそも良いお店というのは、決して客の言いなりにならず、店のコンセプト
や営業方針に基づいて、店側が思うように店内や来店客をコントロールし、そ
れでいてなおかつ客には、コントロールされてると思わせず、押しつけがまし
くも無く、むしろその状況下で居心地の良さを感じてもらい、最後には良いサ
ービスだったという満足感と、店に対する感謝の気持ちすらも覚えてもらって
お帰り頂く。こんな店が100点満点の店であり、客も店もお互いが極めて幸
福な関係を築くことになるのです。
でもこんなことが出来るのは、類いまれなる天性の接客センスを持ち合わせた
一握りの天才だけでしょう。マニュアル化したオペレーションじゃ到底無理だ
し、トレーニングといったって誰もが人から教わって出来ることでも無い。す
るとそんな生まれついてのプロに自店のスタッフとして巡り合える確率など、
世の中これだけの飲食店が乱立する中で、ほとんどゼロに等しいです。
現実はやはり、接客業なんだからお客様は神様。店の都合なんか持ち出すなど
もってのほかで、この身を削ってでも如何にお客様に喜んでもらえるか、満足
してもらえるかを日々心掛けながら、グッとこらえて毎日お店に立ってるんだ
と思います。特にオーナー自ら現場に立って、店の運営の中心にいる場合はね。
お店を始めたばかりの未熟な頃は、気合いだって今以上に入りまくりだし、来
店してくれたお客さんは、冗談抜きで本当に神様に思えるくらい絶対的な存在
だったから、とにかく要望は何でも聞こうと思ってたし、そうでなきゃいけな
いと思い込んでました。
で、想像も出来ないほどのいろんな異常事態遭遇する。つまり世の中、ほんと
にいろんな人間がいるということを知るわけです。
これから少し例を挙げて、他人事の話で盛り上ってもらおうかと思うのですが、
まあ思い返すとあれこれいっぱいあり過ぎて、どれをご紹介していいか分らな
いほど。ほほ笑ましい例もあれば、開いた口がふさがらないような非常識な話
もあり、さらには、こいつだけは絶対に許せねえ!って顔で作り笑いはしてい
ても、心の中では怒り心頭、なんてことも過去には確かにありました。
例えば罪のない例からお話すると、
店の扉を開けるなり、係のテーブルへの案内も無視してズカズカと勝手に席へ
着き、開口一番「コーヒー頂戴!」
完全に喫茶店と勘違いしております。うちは喫茶のご利用はお断りしているの
でその旨お伝えすると、ばつが悪そうに帰られる方もいるのだけど、大抵はム
ッとして立ち去られる。表にはイタリア料理のレストランと書いてあるのに、
勝手に喫茶店と勘違いして、その間違いで気分を害されるケースですね。
次はこんなケース。
それはランチタイムのことだったのですが、当時お肉料理がメインのセットメ
ニューがあって、これを注文されたお客さんが何時までたっても食べ始めよう
としない。気にはなってたので様子を窺っていると、だんだん顔の表情がこわ
ばっていく。暫くしてとうとう呼ばれました。何かマズッタかなと思って席ま
で伺うと、「何時まで待ってももライスが来ないんだけど!」
って、うちは洋食屋じゃないんだからライスは出してないんです。メニューの
何処にもそんなこと書いてないし、それどころかセットには自家製のパンが付
いており、それは当の昔にお出ししておりました。
料理については様々なリクエストがあります。「タバスコください」や、なん
でもかんでも「ブラックペッパー」かけたいなんてのは序の口で、イタリア料
理なのに醤油は無いかとか、パスタ食うのに箸をよこせとか(お年寄りじゃな
くて西洋文化にすっかり慣れた若者ですよ)、ある時はケチャップのスパゲッ
ティーが無いといって怒り、「イタリア料理のくせになんでケチャップのパス
タが無いんだ!」と大声出されたこともあります。
こんなのみんな、今なら上手にあしらって全てお断りするようなことだけど、
開店したての頃は、コーヒーだけのお客様も受け入れたほうが良いんだろうか?
要望に応えてライスも用意すべきなんだろうか?箸も醤油も全て客の好みに合
わせて出すべきなんだろうかって、いちいち真剣に考えました。
これ全部受け入れると、自分の考えるイタリア料理屋じゃ無くなっちゃうんで
すけどね。
こういう困った困ったの出来事が有るかと思えば、とってもありがたいんだけ
ど果たしてどうしたらいいの?っていうようなことも有りましたね。
例えばうちで作っている料理をテイクアウト出来ないかっていうケース。
ある日のランチタイム、うちでは自家製のフォカッチャ(イタリアのパンの一
種)を必ずお出ししているのですが、それをえらく気に入られたお客様が帰り
際に、ぜひ家で食べたいから分けて欲しいとおっしゃる。
分けてあげられるだけの量がこの時は仕込んであったので、出来ない相談では
無かったのですが、何せ物販としてなど考えたことも無かったので、当然包装
材なども無いし、何よりも一体いくらでお持ち帰り頂いたら良いのか、値付け
にも困ってしまった。巷のパン屋さんなんて1個当りの単価はものすごく安い
でしょ?我々とは設備も違えばコストも違う。安い単価でもちゃんと利益が出
るように仕組みが作ってあるはずなんです。
それに比べたらうちのパンなんて質もコストもプロショップにかなうはずがな
く、でも欲しいとおっしゃるお客さんは一般的なパンの値段がベースにあるだ
ろうから、うちのパンのコストがいくら高いからといって法外な値段をつける
わけにはいかない。で、結局その場は見た目でこれくらいが妥当かなと思える
料金でお持ち帰り頂いたのですが、この時はその売買で利益が出るどころか下
手をすれば赤字だったかも知れないという、あんまり笑ってもいられない結末
だったのですね。
こんなことはわりとしょっちゅうあって、他にもうちで作っているデザートを
美味しかったから分けて欲しいというリクエストも良く耳にします。
これもね、お店で食べるから良いんであって、デザートメニュー単体で考えた
ら専門店の味や出来栄えに勝てるわけが無い。ましてテイクアウト用の容器も
何も準備してなければ、簡易包装で持ち帰ってもらっても、お客さんが家に着
いた頃には、見た目が命のデザートは、きっと無残な姿に変わり果てているだ
ろう事は想像に難くないですよね。
お客さんからすれば、さすがにレストランの食事のメニューをテイクアウトし
たいという発想はなかなか出てこないだろうけど、副産物のパンやデザートな
ら気軽に頼みやすいんでしょうね。
だけど世の中にはつわものがいて、うちの料理を出前してくれっていう電話も
良く受けたんです。今どきラーメン屋やうどん屋でも人件費の関係で出前はや
らなくなっている昨今なのに、本格派のイタリア料理レストラン(とオーナー
本人は思っている)を捕まえて出前しろって、ねー。
中には自宅から皿を持ってやってきて、これに盛ってくれっていう人もいるん
ですよ。
こうやっていろいろ挙げてきた例って全てそうなんだけど。基本的に私たちは
店内で召し上がっていただくことを前提に調理をしているのだし、一番美味し
い作り立てをお客さんに味わってもらいたいと思って毎日料理作ってます。そ
れ以降時間の経ったものについては責任が持てないわけです。パンだって時間
が経てば固くなるし、デザートだって同じこと。それどころか冷めてこてこて
に固まったパスタなんて食べる気します?明らかに美味しくないこんな料理で
うちの料理の評価を下されたらたまんないですから。
厳密に言うと私たち飲食店が所有している営業許可は、この店内で食事を提供
することに対する許可なのであって、ここで作った料理をお客さんが外へ持ち
出すということを前提とする営業は許されていないのです。こういう商売をす
るなら、ちゃんと商品の衛生チェックを受けて、食品販売の許可を別に取らな
きゃいけないんだということを知っている客など皆無でしょう。
当時は私もそういう意識が足らなくて、悩みながらもお客さんの求められるま
まにホイホイと受けてしまっていました。
だけどこういうことがいけないのは法律や保健衛生上の問題もさることながら、
ある一人のお客さんの例外要求を聞き入れると、そのお客さんに対してはその
後永久にその例外を受け入れざるを得なくなり、また公平を帰すためには他の
お客さんの要求も受けなくてはいけなくなる。結局最初に自分が描いた経営デ
ザインがどんどん崩れていってしまうことです。
お客さんのことを考えるあまり、何でも我慢して聞き入れているうちに気がつ
いたら自分の思い描いた店とは全然違った節操のない店舗になってしまった、
なんてことも決して笑い話ではありません。それで利益が出てればまだいいで
すが、こういう店に限って客から見放されるんですよ。何でもあるけど、どれ
も特にこれといった魅力の無い店。ここでなくてはいけない理由が見当たらな
いお店ですね。
まあ何れにせよ開店したての頃というのは、そうした思い掛けない客の要求や
振る舞いに毎日のように遭遇しては、はてさてどうしたら良いものか、ここで
客の要求に答えられなくては、明日から一人として来客も無くなってしまうの
では無かろうかと、たいしたことない事柄でもことさら深刻に捉えて悩みが倍
増していくような毎日でした。
今なら、ああまたか、なんて軽く往なしてしまうようなことでも、何せ当時は
経験不足だし、まして真剣度500%くらいの肩に力入りまくり状態ですから、
些細なことであれこれ思い悩むのも仕方ないところかなとも思いますが。
ただ間違ってなかったのは、上記のような客のリクエストや、料理のボリュー
ムに関するそれぞれの意見など、言われる通りに対応してきたこともたくさん
あったけど、店のコンセプトのベースとなる部分は頑なに守り通してきたこと、
そして何事の判断も、自分が客としてこの店に来たら、どんな運営のされ方が
一番気持ち良いかという視点で意思決定してきたことでしょうか。そう、自分
が好きなお店です。
お店の個性って、こういうところから表現されるものなんでしょうね。
人の意見に流されやすいこの世の中、お店の経営ということに関しては、ある
種の頑固さや確固たる信念がむしろ有るべきなんだと、こうした経験を通じて
私は大いに学ばせていただいたと思っています。
つづく
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編集後記
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何だかすっかり「店で見つけたこんな客」シリーズの、飲食店裏事情暴露話に
なってしまっていますが、紙面の都合上まだまだ書き切れていない話も実はた
くさん有ります。
出来れば次回辺りからメルマガのタイトルも変えて、こんなテーマ一本やリで
行きたいくらいですが、読者の皆さんが興味深く読んでくれるかどうかも分り
ませんし、こんなことを続けていくと少々紳士的な振る舞いにも欠けてしまう
嫌いが有るので、まあ程々にしておこうと思いますが、こういう話を、特に同
業者の人とやり出すと、歯止めが効かないくらいに盛り上ってしまうという、
まあ誰もがいろいろ心の中にため込んでいる深いテーマではあるんですね。
そういうわけで、もう一回だけ皆さんにもお付合い頂いて、次回も同様のネタ
で進めてみようなんて思っています。
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