[ ○SIDE-A○ ]
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○月と少年とナイフ● NO92 2008/05/30日号
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○前号までのあらすじ○
阿川 晃(あがわ あきら)は塾の帰り道に血のついた一本のナイフを拾う。次の日学校で、晃は尻尾の切られた猫の話を聞く。晃は自分の拾ったナイフこそがその凶器ではなかったのかという疑問を抱く。
幼馴染みの戸山 理名(とやま りな)と調査を始めた晃は、その途上で同級生の平川 徹(ひらかわ とおる)に遭遇する。平川は晃に黒猫の尻尾を切った犯人捜しをしようと持ちかける。平川は理名に接近し、そのために理名は女生徒から嫌がらせを受け始める。晃はまず平川のことを知るため、彼と親しい沼田 慎介(ぬまた しんすけ)に近づいた。
一方理名への嫌がらせはエスカレートし、彼女は机を隠される。校内を探し回った晃はその机を屋上で見つけた。その机の上に座っていた少女は突如屋上から飛び降り、晃を震撼させたのだった。
理名がその事件にショックを受けていると知り、晃は彼女を訪ねる。そこで晃は理名が飛び降り現場を目撃してしまったことを聞かされる。晃は励ますつもりで理名に声をかけるが、彼女には届かず、代わりに彼女の支えとなったのは平川だった。
そんな中、保健医の高階は晃が自殺未遂を目撃しているとは知らずに屋上へ誘う。高階の誘いに、晃は授業をサボってついていくのだった。
○登場人物○
阿川 晃(あがわ あきら) SIDE-Aの主人公。中学二年生。
阿川 由嘉里(あがわ ゆかり) 晃の母。料理上手。
阿川 衛(あがわ まもる) 晃の父。
戸山 理名(とやま りな) 隣人。晃とは幼馴染み。
平川 徹(ひらかわ とおる) 2-Bの生徒。学校一のルックスを誇る。
沼田 慎介(ぬまた しんすけ) 晃のクラスメイト。平川に席を替わらされている。
高階(たかしな) 保健医。二十代半ば。
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○SIDE-A○ vol.47
「どれだけ先の将来なんだか」
晃は呆れたように言う。
「今リハーサルなんかしたって、その時には忘れてるでしょう」
「そうかな」
「そうです」
「あたしはそうは思わない」
高階は不安定な足場の上であぐらをかいた。煙草の煙ごしに、高階が晃を見る。目をしばたかせた。煙が目にしみるのだろうか?
「忘れないよ、きっと。それどころか鮮烈に思いだすね」
その眼ざしが高階にしてはやけに真剣だったものだから、晃は一瞬言葉を失った。胸にぐっとつかえてくるものがある。なぜか手のひらに汗がにじんだ。
「適当なことを言わないでください」
「優等生のアキラくん、『適当』の本来の意味は『ふさわしい』ってことだよ?」
「だから俺は優等生じゃありません」
「そこで否定したがるのが優等生なんだよ。劣等生ならね、『優等生』なんて言われたらよだれ垂らして喜ぶよ、試しにアキラくん、沼田に『お前は優等生だな』って言ってみ? よだれどころか嬉ションするかもね」
犬じゃあるまいし、と思う。思ったが、実際に想像してみると容易にその光景が浮かんできてしまい、晃は苦笑した。
高階は屋上の壁で煙草をもみ消すと晃に投げて寄越す。「優等生、どうせポイ捨て嫌いなんだろうから始末しといてよ」と言うと高階は壁からずい、と身を乗りだした。
「檜山さぁーん、いったい貴女は何を考えてらっしゃったんですかぁ?」
手でメガホンを作り、高階は絶叫する。「気づかれますよ」と晃は高階の白衣の裾をひっぱったが、もちろん生徒の言うことを聞くような教師ではない。どんどん壁の向こうに乗りだしていってしまう。本当に、危ない。
「放しなよ、アキラくん。あたしたちは現場検証に来たんだからさ、シミュレートしてみる必要があるでしょうが。檜山祐貴がやったようにやってみたらさ、彼女の気持ちがわかるかもしれない」
「やったようにやってみるって、檜山はそんなふうに落ちなかったですよ」
「え」
「あ」
時間が止まった。
晃が高階の白衣を放す。それが合図でもあったかのように、高階が動きだす。高階は重心を屋上の方に戻して、しっかりと着地した。晃を振り向く。予想通りの問いが、高階の口から放たれた。
「どうしてアキラくんがそんなこと知ってるの?」
この場を取り繕うありとあらゆる台詞が、晃の頭の中を駆け巡った。それらは他の人間相手には有用なように思えたが、なぜか高階には通じないような気が、晃にはした。この女は、馬鹿でもなければ迂闊でもない──
晃は覚悟を固めると言った。
「見たんですよ」
「見たって?」
「あの日、檜山祐貴がここから跳ぶのを」
「跳ぶ?」
「そうです」
晃はあの日金色の机が置いてあったあたりを見た。光の名残が、まだそこにわだかまっているような錯覚があった。
「檜山祐貴は落ちたんじゃない。跳んだんです。光の中へ」
【SIDE-A vol.48につづく】
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こんにちは。発行者兼作者の柿山由子です。
最近休日はなぜか雨……。雨、大嫌い! というわけではないですが、やっぱりちょっと哀しい。
先日、京都へ行ってきました。伏見稲荷の連なる鳥居を泥水跳ねあげながら歩きました。
翌日、東京へ行ってきました。予定していた皇居RUNは雨のため中止。ランニンググッズ一式はただの重い荷物と化しました……。
さて、今回は少年A・阿川晃の物語、第47話をお届けします。
休載していたので、晃くんと高階を書くのはえらく久しぶり。しかし相変わらず彼女は饒舌でした。物語はゆっくりですが着実に進んでいきます。来週は以前お知らせした通り、まぐまぐのシステム移行期間のため休載となります。ご了承ください。
それではまた次号お会いしましょう。
柿山由子
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◆ファンタジー童話『おにぎり国物語』(魔法のiらんど)
http://ip.tosp.co.jp/bk/TosBk100.asp?I=ochigaki&BookId=1
※この物語はフィクションです。
実際の人名、地名、団体名等とは一切関係ありません。
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Copyright 2008 by Yuko Kakiyama.All rights reserved.
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[ ●SIDE-B● ]
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○月と少年とナイフ● NO91 2008/05/23日号
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前号までのあらすじ●
伴 明良(ばん あきら)は帰り道に一本のナイフを見つける。明良はそのナイフを眺め、母にナイフを振るうことを妄想した。
明良はクラス委員の檜山裕貴(ひやま ゆうき)と掃除当番をめぐりもめるが、学校外で彼女に遭遇した後は、少しずつシンパシーを感じ始める。
ある日HRの持ち物検査で明良は鞄に入れていたナイフをクラス委員である裕貴に見つかるが、彼女はなぜかこれを告発しない。その理由を問う明良に、祐貴は一枚の絵を預ける。それは祐貴の弟・啓の肖像であるらしかった。クラスメイトの平川徹(ひらかわ とおる)は、祐貴に特別な感情を抱いているらしく、啓のことも知っているようだった。
ある日明良は平川を祐貴のいる屋上に呼びだす。祐貴が衝動的に飛び降りようとするのを、明良は必死でとめた。
翌日待ち伏せしていた平川は、啓の通う学校へと明良を誘った。啓は晃に友達になろうと持ちかけ、断られると自分に惚れている女生徒・真白(ましろ)に晃を殺すよう命じる。晃は帰り道、真白にホームへと突き落とされるが特に怪我もなく無事だった。しかし真白はその後明良の家にまで押しかけてきたのだった。
●登場人物●
伴 明良(ばん あきら) SIDE-Bの主人公。中学二年生。
伴 紀代子(きよこ) 晃の母。
檜山 裕貴(ひやま ゆうき) クラス委員。あだ名は「委員長」。
平川 徹(ひらかわ とおる) 明良のクラスメイト。学校に来ることはまれ。
檜山 啓(ひやま けい) 祐貴の弟。祐貴とは違う中学に通う。
真白(ましろ) 啓と同じ中学に通う。啓が好きで、啓の言うことならなんでも聞く。
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●SIDE-B● vol.46
どうしてここに、と明良が問う前に、真白が口を開いた。
「きったない家」
じろじろと、玄関先を見渡す。
「あんた、貧乏人?」
「貧相な武器だな」
明良は質問には答えず、真白を見返して言う。鼻先に突きつけられたままの箒を振り払った。
「素手よりはマシだが。俺を殺したいんなら、ナイフのひとつでも持ってきたらどうだ?」
ナイフ、という言葉に明良はあの満月の夜に拾ったあのナイフを思いだしていた。今はここになく、ここにいたはずの刺すべき相手も失ったナイフ。
「殺すよ?」
真白は誇らしげに胸をそらした。
「別に、ナイフなんていらない。家さえわかっちゃえば、なんでもできる。今日は、敵情視察」
明良は玄関先に積みあげられたゴミ袋の山を見た。真白がどういう手段を思い描いているのかはわからないが、とりあえず放火には最適な家だな、思う。
「尾けたのか?」
今度は真白が質問を無視した。真白は「あがるよ」と言って靴のまま三和土を越えてくる。
「自分を殺す、と断言している奴を追い返さない奴がいるとでも?」
「じゃあ追い返せば?」
真白は悪びれた様子もなく「その場合は抵抗するけど」と言う。
「本当にあたしを追い返したいなら、今すぐあたしに殴りかかって打ちのめして、道路にでも捨てたらいいのに。でもあんたはそうしないで、こうして会話してる。だからあたしは勝手にあがり込むだけ」
真白が明良とすれ違う。彼女は台所の方に歩いていった。「うわ」「汚い」という声が聞こえる。
明良は頭を軽く振った。
この世に理解できないものがないだなんて信じていない。それどころか理解できないものの方が多いに違いないと明良は思うが、それにしてもこの真白という少女は不可解過ぎた。
明良は真白を追って台所に向かった。真白は無防備に明良に後ろ姿を見せたまま、冷蔵庫を物色している。いっそこのまま真白の言うように、後ろから殴りつけてしまおうか、と明良は思ったが、なぜかそうする気にはなれなかった。狭い台所に置いてあるテーブルセットに腰をおろす。
「何もないじゃん! あんた、普段何喰って生きてんの? あんたの母親、サイテーの自堕落女だね」
こんな女の言うことなのに当たっているのがおかしくて、思わず明良は笑った。
「そうだ」
明良は答える。
「俺の母親はサイテーの自堕落女だ」
真白が振り向いた。その表情がなぜか悔しそうだ。
「フツー、男って母親のことをけなされたら怒るもんじゃないの? つまんない」
唇を尖らす。どうやらさっきのは真白なりの精神攻撃だったらしい。
「事実だからしょうがないな」
「そんな自堕落女から生まれたから、あんたもサイテー男なわけだ」
「俺がどうサイテーだと思う?」
明良はなんだか楽しくなってきて訊いた。
「俺のことそう多くは知らないはずだが? だって今日会ったばかりなんだから」
「サイテーに決まってるじゃん」
真白はさらりと言う。
「だって啓くんが殺せって言うんだよ? 啓くんの言うことはいつだって正しい。だとしたらあんたは悪なんだ。悪ってのはサイテーなんだよ」
「どうして啓のことが正しいと?」
真白は明良のことを憐れむように見た。そして、そんなこともわかんないの、という表情できっぱりと言い放つ。
「だってあたしは啓くんのことが好きなんだよ。好きなものはいつだって正しいんだ」
自分の中には小指の先ほどしか存在していないと思っていた「楽しい」という感情はこの瞬間にふくれあがり、明良は気づくと爆笑していた。
「なんで笑うの?」
実際何がそんなに楽しく、面白いのか明良にはわからなかった。ただ、今までの人生の中で
自分がこんなに笑ったことはなかった、ということだけはわかった。
「楽しそうだな」
明良は言った。
「楽しそうだな、お前の人生。単純明快で」
「あんたの人生は複雑だとでも?」
「俺がもし何か事件を起こしたら、新聞に『少年は複雑な家庭事情にあり』と書かれる程度には」
真白が腕を組んで鼻で笑う。
「そんなの外側からの意見じゃん。馬鹿らしい。だいたい人生が複雑だなんてそんなことあるわけないじゃん」
「どうしてだ」
「だって簡単だもん。さっきも言ったけど、好きなものは正しい。人生なんてつまりそれだけでしょ?」
真白は、「あーおなかすいたー、なんかないのー」と言いながら今度は戸棚を物色し始める。
「そして嫌いなものは正しくないと?」
明良の問いかけに、また真白は鼻で笑って答えた。
「あんた国語の成績悪い? 『正しい』の反対語は『正しくない』じゃないことぐらい小学生でも知ってるよ?」
真白は戸棚を荒っぽく閉めると言った。
「好きなものは正しい。嫌いなものは誤ってる」
【SIDE-B vol.47につづく】
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こんにちは。発行者兼作者の柿山由子です。
ずいぶん間が空いてしまいましたが、皆様、お元気でしたか?
気づけばもう5月も後半。近所の公園では薔薇やラベンダーが咲き誇ってます。花、いいですね。
先日、ハーブの苗を買いました。水やりは朝がいいそうで、ちょっと寝坊した日なんかには「しまった! ごめん!」という気持ちでベランダへ出ます。植物とはいえ家族が増えた感じです。
さて、今回は少年B・伴明良の物語、第46話をお届けします。
斜め上を行く少女・真白。彼女はまだ登場して間もないのに、すでに作者の手に余る人材に成長しつつあります……。さてここから物語はどう転がっていくやら。
それではまた次号お会いしましょう。
柿山由子
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※この物語はフィクションです。
実際の人名、地名、団体名等とは一切関係ありません。
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前号までのあらすじ●
伴 明良(ばん あきら)は帰り道に一本のナイフを見つける。明良はそのナイフを眺め、母にナイフを振るうことを妄想した。
明良はクラス委員の檜山裕貴(ひやま ゆうき)と掃除当番をめぐりもめるが、学校外で彼女に遭遇した後は、少しずつシンパシーを感じ始める。
ある日HRの持ち物検査で明良は鞄に入れていたナイフをクラス委員である裕貴に見つかるが、彼女はなぜかこれを告発しない。その理由を問う明良に、祐貴は一枚の絵を預ける。それは祐貴の弟・啓の肖像であるらしかった。クラスメイトの平川徹(ひらかわ とおる)は、祐貴に特別な感情を抱いているらしく、啓のことも知っているようだった。
ある日明良は平川を祐貴のいる屋上に呼びだす。祐貴が衝動的に飛び降りようとするのを、明良は必死でとめた。
翌日待ち伏せしていた平川は、啓の通う学校へと明良を誘った。啓は晃に友達になろうと持ちかけ、断られると自分に惚れている女生徒・真白(ましろ)に晃を殺すよう命じる。晃は帰り道、真白にホームへと突き落とされるが特に怪我もなく無事だった。しかし真白はその後明良の家にまで押しかけてきたのだった。
●登場人物●
伴 明良(ばん あきら) SIDE-Bの主人公。中学二年生。
伴 紀代子(きよこ) 晃の母。
檜山 裕貴(ひやま ゆうき) クラス委員。あだ名は「委員長」。
平川 徹(ひらかわ とおる) 明良のクラスメイト。学校に来ることはまれ。
檜山 啓(ひやま けい) 祐貴の弟。祐貴とは違う中学に通う。
真白(ましろ) 啓と同じ中学に通う。啓が好きで、啓の言うことならなんでも聞く。
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●SIDE-B● vol.46
どうしてここに、と明良が問う前に、真白が口を開いた。
「きったない家」
じろじろと、玄関先を見渡す。
「あんた、貧乏人?」
「貧相な武器だな」
明良は質問には答えず、真白を見返して言う。鼻先に突きつけられたままの箒を振り払った。
「素手よりはマシだが。俺を殺したいんなら、ナイフのひとつでも持ってきたらどうだ?」
ナイフ、という言葉に明良はあの満月の夜に拾ったあのナイフを思いだしていた。今はここになく、ここにいたはずの刺すべき相手も失ったナイフ。
「殺すよ?」
真白は誇らしげに胸をそらした。
「別に、ナイフなんていらない。家さえわかっちゃえば、なんでもできる。今日は、敵情視察」
明良は玄関先に積みあげられたゴミ袋の山を見た。真白がどういう手段を思い描いているのかはわからないが、とりあえず放火には最適な家だな、思う。
「尾けたのか?」
今度は真白が質問を無視した。真白は「あがるよ」と言って靴のまま三和土を越えてくる。
「自分を殺す、と断言している奴を追い返さない奴がいるとでも?」
「じゃあ追い返せば?」
真白は悪びれた様子もなく「その場合は抵抗するけど」と言う。
「本当にあたしを追い返したいなら、今すぐあたしに殴りかかって打ちのめして、道路にでも捨てたらいいのに。でもあんたはそうしないで、こうして会話してる。だからあたしは勝手にあがり込むだけ」
真白が明良とすれ違う。彼女は台所の方に歩いていった。「うわ」「汚い」という声が聞こえる。
明良は頭を軽く振った。
この世に理解できないものがないだなんて信じていない。それどころか理解できないものの方が多いに違いないと明良は思うが、それにしてもこの真白という少女は不可解過ぎた。
明良は真白を追って台所に向かった。真白は無防備に明良に後ろ姿を見せたまま、冷蔵庫を物色している。いっそこのまま真白の言うように、後ろから殴りつけてしまおうか、と明良は思ったが、なぜかそうする気にはなれなかった。狭い台所に置いてあるテーブルセットに腰をおろす。
「何もないじゃん! あんた、普段何喰って生きてんの? あんたの母親、サイテーの自堕落女だね」
こんな女の言うことなのに当たっているのがおかしくて、思わず明良は笑った。
「そうだ」
明良は答える。
「俺の母親はサイテーの自堕落女だ」
真白が振り向いた。その表情がなぜか悔しそうだ。
「フツー、男って母親のことをけなされたら怒るもんじゃないの? つまんない」
唇を尖らす。どうやらさっきのは真白なりの精神攻撃だったらしい。
「事実だからしょうがないな」
「そんな自堕落女から生まれたから、あんたもサイテー男なわけだ」
「俺がどうサイテーだと思う?」
明良はなんだか楽しくなってきて訊いた。
「俺のことそう多くは知らないはずだが? だって今日会ったばかりなんだから」
「サイテーに決まってるじゃん」
真白はさらりと言う。
「だって啓くんが殺せって言うんだよ? 啓くんの言うことはいつだって正しい。だとしたらあんたは悪なんだ。悪ってのはサイテーなんだよ」
「どうして啓のことが正しいと?」
真白は明良のことを憐れむように見た。そして、そんなこともわかんないの、という表情できっぱりと言い放つ。
「だってあたしは啓くんのことが好きなんだよ。好きなものはいつだって正しいんだ」
自分の中には小指の先ほどしか存在していないと思っていた「楽しい」という感情はこの瞬間にふくれあがり、明良は気づくと爆笑していた。
「なんで笑うの?」
実際何がそんなに楽しく、面白いのか明良にはわからなかった。ただ、今までの人生の中で
自分がこんなに笑ったことはなかった、ということだけはわかった。
「楽しそうだな」
明良は言った。
「楽しそうだな、お前の人生。単純明快で」
「あんたの人生は複雑だとでも?」
「俺がもし何か事件を起こしたら、新聞に『少年は複雑な家庭事情にあり』と書かれる程度には」
真白が腕を組んで鼻で笑う。
「そんなの外側からの意見じゃん。馬鹿らしい。だいたい人生が複雑だなんてそんなことあるわけないじゃん」
「どうしてだ」
「だって簡単だもん。さっきも言ったけど、好きなものは正しい。人生なんてつまりそれだけでしょ?」
真白は、「あーおなかすいたー、なんかないのー」と言いながら今度は戸棚を物色し始める。
「そして嫌いなものは正しくないと?」
明良の問いかけに、また真白は鼻で笑って答えた。
「あんた国語の成績悪い? 『正しい』の反対語は『正しくない』じゃないことぐらい小学生でも知ってるよ?」
真白は戸棚を荒っぽく閉めると言った。
「好きなものは正しい。嫌いなものは誤ってる」
【SIDE-B vol.47につづく】
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先日、ハーブの苗を買いました。水やりは朝がいいそうで、ちょっと寝坊した日なんかには「しまった! ごめん!」という気持ちでベランダへ出ます。植物とはいえ家族が増えた感じです。
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斜め上を行く少女・真白。彼女はまだ登場して間もないのに、すでに作者の手に余る人材に成長しつつあります……。さてここから物語はどう転がっていくやら。
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[ お知らせ ]
ご無沙汰しております。
『月と少年とナイフ』の発行者兼作者の柿山由子です。
しばらく休載しておりました当メルマガですが、5/23号より再び配信させて頂く運びとなりました。今後も変わらぬご愛顧をお願い申し上げます。
また、『まぐまぐ!』のシステム変更に伴いまして、2008年6月10日(火)0時〜ブログ機能が停止となります。ブログの読者の方は、この機会にメールマガジンへの移行をお願い致します。
さらに『まぐまぐ!』のシステム変更作業により、6月6日から移行作業完了の6月10までメルマガの発行が不可能となります。つきましては、6月9日の『月と少年とナイフ』は休載とさせて頂きますのでご了承くださいませ。
拙い物語ながら、最後までしっかり書き上げていくつもりですので、どうかこれからも『月と少年とナイフ』をよろしくお願い致します。
柿山由子
『月と少年とナイフ』の発行者兼作者の柿山由子です。
しばらく休載しておりました当メルマガですが、5/23号より再び配信させて頂く運びとなりました。今後も変わらぬご愛顧をお願い申し上げます。
また、『まぐまぐ!』のシステム変更に伴いまして、2008年6月10日(火)0時〜ブログ機能が停止となります。ブログの読者の方は、この機会にメールマガジンへの移行をお願い致します。
さらに『まぐまぐ!』のシステム変更作業により、6月6日から移行作業完了の6月10までメルマガの発行が不可能となります。つきましては、6月9日の『月と少年とナイフ』は休載とさせて頂きますのでご了承くださいませ。
拙い物語ながら、最後までしっかり書き上げていくつもりですので、どうかこれからも『月と少年とナイフ』をよろしくお願い致します。
柿山由子
[ お知らせ ]
作者都合により、メールマガジン『月と少年とナイフ』はしばらくの間休載とさせて頂きます。
毎回配信を楽しみにしてくださっている方にはご迷惑をおかけしますが、ご理解ください。
尚、配信再開予定は2008年5月からを予定しております。
決まり次第お知らせのメールを配信させて頂きますので、宜しくお願い致します。
お知らせが遅くなりましたことを重ねてお詫び申し上げます。
柿山 由子
毎回配信を楽しみにしてくださっている方にはご迷惑をおかけしますが、ご理解ください。
尚、配信再開予定は2008年5月からを予定しております。
決まり次第お知らせのメールを配信させて頂きますので、宜しくお願い致します。
お知らせが遅くなりましたことを重ねてお詫び申し上げます。
柿山 由子
[ お知らせ ]
本日配信予定でした『月と少年とナイフ』91号(SIDE-B vol.46)は、休載とさせて頂きます。
尚、次回配信予定日は再来週4/4(金)となります。配信を楽しみにしてくださっている方にはご迷惑をおかけしますが、ご了承ください。
柿山 由子
尚、次回配信予定日は再来週4/4(金)となります。配信を楽しみにしてくださっている方にはご迷惑をおかけしますが、ご了承ください。
柿山 由子