[ 横浜ストーリー ]

久々に更新が遅れてしまいました。
原稿自体はできていたのですが、
まぐまぐのシステム変更があり、私の技術がついていけませんでした。
また今週からがんばりますので、ご愛読をお願いします!

★この本から感じる「横浜」:
あらゆるメディアをPR手段にする中嶋氏

ブログの醍醐味は読者との共同作業である。
このブログを綴る中で特に楽しみにしていたのは、
「こんな横浜本があるよ!」と私が知らなかった本を教えてもらうことであったが、
早くも「ンボマハコヨ」3冊目に対するコメントの中で、
「やまぴょん」さんが中嶋博行氏の存在を教えてくれたときは嬉しかった。
1955年茨城県生まれの中嶋氏は横浜弁護士会に所属する現役弁護士でありながら、
1994年に『検察捜査』で第40回江戸川乱歩賞を受賞、
その後も横浜を舞台にした優れたリーガル・サスペンスを次々と発表している。
今回はそんな中嶋氏の「法曹三部作」を一気に紹介したい。

『検察捜査』(1994年)
江戸川乱歩賞受賞作。
中区の高級住宅街で起きた大物弁護士殺害事件を横浜地検の美人検察官が追い、
検察庁、弁護士会など法曹界内部の確執が浮かび上がる。そして驚くべき結末が...。
主人公岩崎紀美子の自宅は大倉山のマンション、横浜地方検察庁ビルや県警本部ビルの
描写もある。そして物語のエピローグは横浜地方裁判所で迎えることになる。

『違法弁護』(1995年)
ランドマークタワーのエムザ総合法律事務所で働く弁護士水島由里子が主人公。
それまで弁護士数560人だった横浜に、100人の弁護士を擁して出現したエムザは、
国際取引などの「金になる」仕事だけを手がけるローファーム。
本牧ふ頭の倉庫街で警官射殺事件が発生する。その事件に関係する貿易会社の法務を
担当する水島は次第に自分が巨大な陰謀に巻き込まれていることに気付く...。

『司法戦争』(1998年)
3年ぶりに刊行された三部作の3作目は文庫本で700ページに及ぶ大作。
主人公は検察から「判検交流」で最高裁に派遣されている真樹加奈子、33歳。
沖縄で殺された最高裁判事の背景を探れという極秘指令が検察から加奈子に出される。
殺された判事が在籍していたのは関内の20階建て高層ビル最上階の法律事務所
調査の中で明らかになる米国ローファームの存在と日米間の国益をめぐる争い。
そして事件の裏に隠されたある人物の意図は...。

これら「法曹三部作」は、いずれもハラハラドキドキ、読み始めたらノンストップ、
そして驚きに満ちた結末が用意されている高品質のミステリーなのだが、
それでいて単なるエンターテインメント小説であるにとどまっていない。
『検察捜査』では検察官志望者が激減している状況を、
『違法弁護』では弁護士の大量採用に伴い予想される過当競争の将来を、
『司法戦争』では膨大な仕事量に追われる裁判官の現状と陪審制の問題点を、
それぞれストーリーと絡めながら描き、読者に印象づけることに成功している。
恐らく中嶋氏にとって、ミステリーを書くことは一つの啓発手段なのであって、
ミステリー作家になりたくて小説を書いたのではなかったのかもしれない。

そんな中嶋氏が最近力を注いでいるのが法体系の「矛盾」などについての論説である。
2004年には被害者救済よりも加害者の人権を「優遇」する現在の法体系を指弾する
『罪と罰、だが償いはどこに?』(新潮社)を、昨年はいじめを犯罪と位置づけつつ
加害者の処分によるいじめ根絶を訴える『君を守りたい』(朝日新聞社)を上梓している。
2003年にスタートした漫画『ホカベン』でも原作者として被害者救済を訴えている。

自らの主張を多くの人に伝えるため、論文や漫画、そしてミステリーに至るまで
あらゆるコミニュケーションツールを使いこなす中嶋氏のような人物は
新聞、漫画雑誌、写真などのメディア発祥の地である横浜にふさわしく感じられる
中嶋氏の「啓発活動」は法曹界や法体系を動かすための大きな力になるだろう。


【書誌データ】
書 名:検察捜査
著 者:中嶋博行
出 版:講談社文庫
出版年:1997年7月(単行本1994年)
価 格:619円
ISBN: 978-4-06-263546-2