[ 横浜ドキュメント ]

★この本から感じる「横浜」:かつて震災を経験しているまち・横浜

先週の『横浜港の七不思議』に続き、「やってくれたよ有隣堂」シリーズ第2弾をお送りしたい。
私は本ブログ12冊目で、横浜には関東大震災を語り継ぐための
「震災本」が存在しない
という現状を指摘した。
先月、その記事を読んでくれた人がいたのでは、と思いたくなるような本が有隣堂から出版された。
題して『横浜の関東大震災』!
我が意を得たり
とはこのことだ。
誰かが書かなければいけなかった本書を、本ブログ45冊目『大空襲5月29日』の著者でもある今井清一氏が書き下ろして下さった。

横浜での死者は2万3千人、行方不明3千人(当時の横浜市人口は44万人)、
被害世帯は98%に及び、9万8千戸のうち全壊・半壊3万8千戸、全焼5万5千戸、
大桟橋も陸側の3分の2が崩壊というこの大惨事について、
本書は市内各地の被害状況に始まり、陸海軍の動き、流言・虐殺、海からの救援、
そして復興についてと、「横浜の震災」の論点を網羅的に論じている。

本書の大きな特徴の一つは、個別具体の事例を幅広く紹介していること。
耐火性を誇った市庁舎が、想定外の3階から火が入ったため全焼したことや、
普通なら延焼を防げる山手の敷地の広い家々にも烈風で火が燃え広がったこと、
警察、市役所、県庁などの行政機関が破壊されて無政府状態が続いたことなど、
人智を上回る災害の恐ろしさが伝わってくる。

また、「横浜の震災」に歴史的重要性を付与している流言・朝鮮人虐殺の問題
ついては、紙幅を割いて詳細な分析がなされ、
流言の原因として、食料調達のための略奪行為が朝鮮人の暴挙と謝って伝えられ、
それに放火・強盗・強姦・投毒などの流言が加わった
という「略奪原因説」や、
避難民を団結させるために警察官が「朝鮮人が襲ってくるから注意せよ」と
言って回った
という「警察警戒原因説」などが紹介されている。
後者など容易には信じがたいことだが、少なくとも、住民、警察、軍隊から
政府中枢までが、流言を真実と思い込み行動していた
ということは事実のようだ。
流言・虐殺の背景として、前年から原内閣が民衆運動の活発化を防ぐために
「民衆の警察化」を図っており、地域ごとに組織された自警団では朝鮮人を鑑別する
技法も教え込まれていた
という指摘もなされている。

現在、建築物の耐震性や耐火性は当時に比べ格段の改善が見られているし、
流言など情報の問題についても、インターネットや携帯電話の普及により、
当時よりは「正しい情報」が流通する可能性が高いとは思う。
しかし、災害が想定外の被害を生むことや、天災が人災に転ずる瞬間など、
災害時の悲劇の本質は今も変わっていない。
横浜市民がかつての震災を知っておくことは、災害時に有形無形の力になるに違いない。

以上、2週連続企画「やってくれたよ有隣堂」シリーズをお送りした。
今井氏も指摘しているように、横浜の震災に関する研究は極めて乏しい。
かつて野毛山に設置されていた横浜市震災記念館も今はもうない。
そんな中で、本書の出版意義は大変大きい。
これからも有隣堂には「これぞ横浜本!」と言える本の出版を心から期待したい。


【書誌データ】
書 名:横浜の関東大震災
著 者:今井清一
出 版:有隣堂
出版年:2007年9月
価 格:2,300円
ISBN: 978-4-89660-201-2