[ 横浜ストーリー ]
★この本から感じる「横浜」:街道のまち・鶴見
57冊目を更新したばかりだが、今回は緊急で更新することにした。
神田神保町には、知る人ぞ知る「書肆(しょし)アクセス」という書店がある。
日本全国の地方出版物を取り扱う1976年開業の専門書店で、
店内には地方色にあふれた本や雑誌が所狭しと並べられている。
横浜本の普及を目的とする本ブログとは、ミッションを同じくする書店
だと思うのだが、その書肆アクセスが今月11月17日をもって閉店となる。
売り上げが5年前から下降し、昨年は書店卸が前年比50%もダウンしたのだという。
ネット書店がロングテールをカバーしたためなのか、地方出版物が売れなくなったのか、
原因は分からないが、いずれにしろ私はこのニュースにショックを受けた。
もっとも私自身、この書店の常連客でもなんでもなく、
閉店を知らせる新聞記事で初めて書肆アクセスの存在を知った。
先日慌ててお店を訪れてきたのだが、今回は、書肆アクセスの紹介を兼ねて、
そのときに入手した「掘り出し物」を紹介したい。
『熊の茶屋』は江戸後期の鶴見村の日常を描いた連作短編時代小説集。
第2部『子育てまんじゅう』
「街道茶屋百年ばなし三部作」を構成し、3冊で合計36の短編が収録されている。
ストーリーは、代々生麦村の名主を務めた関口家に伝わる『関口日記』など、
遺されている歴史史料のわずかな記録を「種」にしてストーリーをふくらませ、
作家的想像力で「街道のまち・鶴見」の日常を鮮やかに「再現」している。
例えば本書の表題作「熊の茶屋」は、店先で熊に芸をさせていた茶屋の話。
「鶴屋と亀屋」は鶴見川の対岸にある市場村との張り合い半分の交流ばなし。
『子育てまんじゅう』表題作は、1809年(文化6年)に出た草双紙
『子生山利生記敵討鶴見郷』から素材をとった、名物づくりをめぐるエピソード。
そのほか、鶴見橋の掛け替えをめぐる悲喜こもごもを描いた「鶴見橋夕照」や、
ペリー来航時に東海道に迷い込んだ外国人の話「イッピンシャンの冒険」、
生麦事件のときにリチャードソンを介抱した美少女の話「黒い瞳のスーザン」などなど、
ベースは人情話なのだが、それぞれ歴史的背景が書き込まれていて、読ませる。
一話ごとが読み切りであるが、後引く面白さで止まらなくなる。
本書にめぐり合わせてくれた書肆アクセスに心から感謝したい。
私のように偏執的な目で「横浜本」を渉猟していても出会えなかった本に出会える。
そんなオリジナリティーあふれる書店が閉店となるのは寂しいことだし、
地方出版文化にとって大きな損失だと思う。
しかし、このことは、現時点での現実として受け入れなくてはいけない。
せめて残された11月17日までの間に、一人でも多くの人にお店を訪れていただきたい。
【書誌データ】
書 名:街道茶屋百年ばなし 熊の茶屋
著 者:岩崎京子
出 版:石風社
出版年:2005年3月(原著『東海道鶴見村』1977年)
価 格:1,500円
ISBN: 978-4-88344-118-1
