★この本から感じる「横浜」:音響装置としての本牧と「本牧音」
年の暮れに、カッコいい本が出た。
今月刊行された本書は、「タイガー&ドラゴン」などのヒット曲を持つ
クレイジーケンバンドのボーカル&ソングライター&プロデューサーであるクレイジーケンこと横山剣氏が47歳で書いた半生記。
1960年(昭和35年)7月6日、聖マリアンナ・ホスピタル病院で生まれたクレイジーケンは、本牧や日吉で幼少時代を過ごし、初ライブは実家のある戸塚ドリームハイツの集会所。
16歳で独り住まいを始めたのは本牧で、神宮前や用賀などに住んだ時期もあるものの、
横浜駅東口、磯子、本牧など、ほぼ横浜に住まいを構えて音楽活動を続けている。
クレイジーケンバンドの楽曲も「長者町ブルース」など横浜を舞台にしたものが多い。
500ページを超える本書には、ケンカや奇行など、「クレイジーケン」のイメージ通りの
エピソードも盛りだくさんだが、その一方で、意外なことも多々書いてある。
例えば、クレイジーケンのアイデンティティは「作曲」だという。
楽曲こそが「おれのすべて」。
小学校低学年の頃から脳内で勝手にメロディーが鳴っていた。
鍵盤で曲を作るのが好きで、「鍵盤は私の合法覚醒剤」とまで言い切る。
バンドは手段で、ライヴをやらない、曲作りのみのバンドを求め、
自分のフォーリングを意のままに表現できるクレイジーケンバンドに
たどり着くまでに、いくつものバンドを作っては潰してきた。
1981年にクールスRCのメンバーとしてデビューして以来、ダックテイルズ
、
ZAZOUなどを経て、クレイジーケンバンドを結成したのはようやく1997年のこと。
ちなみにクレイジーケンバンドの理想は「東洋一のサウンド・マシーン」だという。
本書を通じて目立つのは、「SOUL電波」「感覚信号」「用賀的質感」「京浜磁場」など、
さまざまな言葉で次から次へと繰り出されるクレイジーケンの感覚的な表現。
中でも「横浜本」として読むときに「本牧音」というコンセプトは見逃せない。
クレイジーケンは、住所不定の頃に泊めてもらっていた本牧町の友人の部屋の安い
ステレオで聴く音楽に、「説明不可の因果な音の滲み」を感じ、「本牧音」と名づけた。
「本牧通りのGold Rush、IG、VFHでも出力されていた圧縮感のある音質」だという。
これは、音そのものがどうこうというよりも、本牧は街そのものがダブ・マシーンで、
本牧に漂う「氣」が脳内でエフェクトされたものだろうと自ら推測している。
そんな「音響装置としての本牧」は、米軍施設が撤去された今も変わらないという。
本ブログ「ンボマハコヨ」は、一義的には横浜に関する本のブックガイドなのであるが、
同時に横浜本を通じて「横浜とは何か」を追究する「横浜研究」の試みでもある。
私自身、本ブログ11冊目で「横浜の香り」なるものを論じていたりはするのだが、
「土地特有の磁場みたいなもんが、聴く音楽の音像に影響を与える」という
クレイジーケンの語りは、横浜という町にとってそうした「磁場」「香り」「空気」こそが、
かけがえのない大切なものなのだということを思い出させてくれた。
最後になるが、書店で本書を見つけた方は、ぜひカバーを外してみてほしい。
そこにも「クレイジーケンの香り」が濃密に漂っているから。
みなさま、今年も1年間ご愛読ありがとうございました。
よいお年をお迎えください!
【書誌データ】
書 名:クレイジーケンズ マイ・スタンダード
著 者:横山剣
出 版:小学館
出版年:2007年12月
価 格:2,500円
ISBN: 978-4-09363-715-2![]()
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