[ 横浜ドキュメント ]

 
★この本から感じる「横浜」:特高警察が跋扈したまち・横浜

一昨日の3月14日、戦時中最大の言論弾圧事件と言われる「横浜事件」についての3度目の再審請求に対し、最高裁から上告を棄却する判決が出された。
これにより有罪・無罪を問わずに裁判手続きを打ち切る免訴判決が確定。
容疑の「でっち上げ」で検挙され、拷問により「自白」を強要された夫や父親などの無罪を明らかにし、名誉回復を実現したいという遺族たちの思いはまたも叶わなかった。

「横浜」を名に冠したこの事件、一体いかなるものだったのか。
例えば朝日新聞の記事では、横浜事件は次の通り説明されている。

 1942年から45年にかけて、中央公論や改造社、朝日新聞などの言論・出版関係者
 約60人が「共産主義を広めようとした」として、治安維持法違反容疑で神奈川県警
 特高課に逮捕された言論弾圧事件。(中略)約30人が45年8月〜9月に有罪判決を
 受けたが、同年10月に同法が廃止されて大赦となった。一方、拷問をした元特高
 警察官3人が有罪判決を受けている。

しかし、この説明だけでは「横浜事件」と呼ばれている由来は分からない。
横浜事件は、
・米国共産党事件(1942年9月11日、米国帰りの夫妻を検挙)
・細川嘉六事件(同月14日、『改造』掲載の論文を理由に検挙)
・満鉄調査部事件(同月21日〜、東京や上海などで部員らを検挙)
・共産党再建準備会事件(1943年5月26日、富山県への旅行参加者を検挙)
など一連の事件の総称であり、個々の事件の舞台は横浜ではない。
にもかかわらず、「横浜事件」と呼ばれるのはなぜか。

再審請求弁護団長の森川金寿氏によると、検挙された容疑者が横浜市内の警察署
(鶴見、磯子など)に留置され、拷問取調べが行われたことによる(『教科書と裁判』)。
ちなみに近代日本の治安体制を専門とする荻野富士夫氏は『横浜事件と治安維持法』で、
戦時下の海軍省の史料や、神奈川県警本部編『神奈川県警察史』(1974年)では
「神奈川事件」という呼称が使われていることを指摘するとともに、
神奈川県特高課による事件だから神奈川事件と呼ぶのがより正確とコメントしている。
もっとも、神奈川事件としたところで事件の本質が分かりにくいことには変わりないが、
今更「神奈川県特高課容疑捏造事件」などに名称を変えるわけにもいかないのだろう。

なお、横浜事件については、1冊でその全貌が把握できる本が現在見当たらない。
本文中で紹介した『横浜事件と治安維持法』には荻野氏の横浜事件についての論文が
集められているが、横浜事件についての概略的な知識なしに読む解くのは難しい。
そんな中で、事件関係者の証言を幅広く集めてあり比較的全貌に近づきやすい構成に
なっている『横浜事件の再審開始を!』を今回の横浜本として紹介することにした。


【書誌データ】
書 名:世紀の人権裁判 横浜事件の再審開始を!
著 者:横浜事件の再審を実現しよう!全国ネットワーク
出 版:樹花社
出版年:1999年3月
価 格:800円
ISBN: 978-4-79525-044-4