[ 横浜ドキュメント ]
 
★この本から感じる「横浜」:情報公開制度の開拓者・神奈川県庁

1983年(昭和58年)4月1日に神奈川県の「公文書公開条例」が施行されてから四半世紀が過ぎた。
神奈川県は国や全国の自治体に先駆けて情報公開の法制化を実現したので、神奈川県の情報公開の歴史は、そのまま日本の情報公開の歴史に重なっている。
本書はそんな先駆的な条例の制定に取り組んだ神奈川県庁の動きを辿ったドキュメント。
およそ1,500日間にわたる自治体版「プロジェクトX」の記録である。

このプロジェクトの当事者の一人でもある筆者の中出氏は1943年、松田町生まれ。
大学卒業後に神奈川県に就職するが、アメリカの地方自治を勉強するため、1972年に
一度退職し渡米。半年ほどの滞米の後に帰国し、神奈川県に再就職という経歴を持つ。
役所が条例を制定するまでの過程を役人が書いたとなれば、いかにも難解で退屈な本に
なりそうであるが、本書では中出氏の本音や条例制定の舞台裏が赤裸々に
描かれていて、「情報公開スピリット」に貫かれた血の通った一冊になっている。

神奈川県は1979年、二期目の当選を果たした長洲一二知事の下で情報公開制度の
具体的検討に着手するが、県民部のプロジェクトチームの道のりは平坦ではなかった。
「情報」というあらゆるセクターの利害が絡むテーマだけに、議員、企業団体など、
「慎重論」には事欠かなかった。
中出氏が1980年にアメリカの情報自由法(1967年施行)の運用実態調査のため
アメリカに派遣されている間にも、県庁内に揺り戻しの動きが起こっている。

国内に先行者が存在しないプロジェクトゆえに、整理すべき課題も山積していた。
例えば機関委任事務関連など国から得た情報は県の判断で公開することができるのか。
労働省から「今後、県に情報を提供しない」と言われる一幕もあったというが、
原田尚彦氏を始め、法学者の意見も聞きつつ、落とし所を見出していく。
他にも公開原則の例外を規定する「適用除外事項」はどう定めるか、
法制化されていないプライバシーの保護をどこまで盛り込むべきかなど、
いずれも一つ間違えば個人や企業の権利侵害につながりかねない問題だった。

全ての課題を克服し、条例案が県議会を総員賛成で通過したのは1982年10月のこと。
ちなみに横浜市の条例制定は5年後の1987年。
そして国による情報公開法制定は...なんと1999年(平成11年)のこと。
神奈川県による条例制定から17年もの時間が流れたことになるが、
ブログの趣旨を鑑みて、ここでは神奈川県の先進性を讃えるにとどめることにしたい。

今回、「ンボマハコヨは横浜についてのブログなのに、なぜ神奈川県?」という疑問を
持った方がいるかもしれない。
しかし、神奈川県は横浜の歴史の主人公となる資格を十分に持っている。
何しろ現在の神奈川県庁は、前回の81冊目などで触れた日米和親条約締結に向けた
交渉をするための応接所が設けられたエリアに位置
しているのである。
これからも神奈川県には横浜らしいフロンティア・スピリットの発露を期待したい。


【書誌データ】
書 名:情報公開立法史 神奈川県公文書公開条例の誕生
著 者:中出征夫
出 版:公人社
出版年:2004年9月
価 格:2,800円
ISBN: 978-4861620041