[ これも横浜本? ]
 
★この本から感じる「横浜」:重大鉄道事故が二度起こったまち・横浜

残念ながら、これも横浜本である。
本書は、元JR東日本会長の山之内氏が、19世紀以降に国内外で
起きた鉄道事故と、それらの事故を契機として生まれてきた安全システムの歴史を辿った一冊。
40年以上を超える国鉄・JRでの経験談も随所に織り込まれ、「安全」についての生々しくも地に足の着いた議論が展開されている。
なぜ本書が横浜本なのか。
死亡者数で見た日本の鉄道10大事故に、横浜で起こったものが2件も
ランクイン
しているのである。

一つは1951年(昭和26年)4月24日に起こった「桜木町事故」
この日午後、5両編成の京浜東北線が横浜駅を発車し、桜木町駅にさしかかったとき、
作業の誤りで切れて垂れ下がっていた高電圧の送電線(架線)にパンタグラフが絡まり、
電圧1,500ボルトもの電気が鋼体製の車体に接触した。
こうした場合に瞬時に送電を停める遮断機は十分に動作せず、大電流が流れ続け、
屋根が木製であった電車はたちまちのうちに炎に包まれた。
この事故で日本鉄道史上7番目に多い106人の乗客が亡くなった。

そしてもう一つは1963年11月9日に起こった「鶴見事故」
夜の9時51分、東海道線の鶴見と新子安の間を走っていた45両編成の貨物列車の
43両目が突然脱線して左側に傾き、電柱に衝突し、続く2両も脱線した。
並行して走っていた横須賀線の下り電車の運転士は架線の揺れを見て急停止したが、
この電車と貨物列車の間に走ってきた上り横須賀線が脱線した貨車に衝突。
上り電車の先頭車が脱線し、停車していた下り電車の4両目と5両目に突っ込んだ。
この事故での死者は日本鉄道史上3番目の161人。
本ブログ68冊目で触れたが、横浜市大の三枝博音学長もこの事故で亡くなっている。

この2つの事故は、それぞれ国鉄が安全確保を推進する大きなきっかけとなった。
桜木町事故については、戦中の資材不足の中で作られた電車の屋根に鉄板を張り、
幌がないため開けられなかった車両間の連結部には通路用の幌を取り付け、
事故時に乗務員が操作を怠った非常用の扉操作レバー「Dコック」は赤ペンキで塗られた。
さらに国鉄は、安全の憲法と言われる「安全の確保に関する規定」を初めて定め、
「安全は、輸送業務の最大の使命である」との原則を基本綱領の冒頭に掲げた。

鶴見事故後の対策は一筋縄ではいかなかった。
事故直後に鶴見事故技術調査委員会を設置し、試験走行なども実施するが、
車両が脱線した原因を解明できず、複数の要因による「競合脱線」という結論となった。
そこで1968年に脱線事故技術調査委員会を新たに設置し、北海道の廃線を使って
積荷や車両寸法などの条件を変えて試験走行を行った
結果、脱線を防ぐための
技術的課題を把握することにつながり、競合脱線事故の大幅減に寄与した。
山之内氏が言うように、大事故が、結果として安全技術の蓄積につながってきた。
それが鉄道史の現実なのだ。

事故で亡くなられた方のご遺族は、きっとまだ多く横浜に住まわれているのだと思う。
桜木町事故、鶴見事故とも横浜の地域特性が原因で起こったものではないと思うが、
2つの大事故の舞台となった横浜は、鉄道の安全について高い問題意識を持つまち
あるべきだと考える。
一昨年12月に、市営地下鉄の点検中の事故で交通局の職員が亡くなったという。
横浜が「鉄道事故のないまち」となる日まで、語り継ぐべきことは多い。


【書誌データ】
書 名:なぜ起こる鉄道事故
著 者:山之内秀一郎
出 版:朝日文庫
出版年:2005年7月(単行本2000年)
価 格:700円
ISBN: 978-4022614797