[ 「坂の上の雲」 要 約 ]  
真之が、この両将の対面につき、小笠原長生に物語った感想は、小笠原長生によって文語になって記録されている。

「余は従来、いまだかつてかくのごとき思い出深き場合に会したることあらず。東郷・乃木両大将が、熱誠を籠めて握手せる刹那の光景は、忘るべからざるの印象を余に与えたり」

黒井中佐の重砲陣地へゆくまでのあいだ、砲声はなお殷々として天にある。

途中、歩きながら、案内者である乃木は東郷に対し、二度おなじことをいった。
「あなたは海の提督であって、陸で怪我をされては大変ですから、頭を出してはいけません。頭を出すと、すぐ射ってきますから」

乃木は東郷をかばうべく左側に自分の体を置き、腰をまげて歩いた。

陸戦重砲隊陣地につくと、黒井中佐が路上で出迎えていた。「ご苦労でした」と、東郷は黒井にいった。ちょっと言葉をとぎらせて、「まだ、あとがあるな」と、にこっと微笑した。

「今夜は大連へお泊りになりますか」と、真之はきいた。
「いや、三笠に帰る」東郷は、いった。

そうあるべきであろう。あたらしい敵を待つために、半日でも早く連合艦隊は旅順の洋上からひきあげるべきであった。

産経新聞連載 新聞小説要約  下高原健二挿絵 切抜