[ 「坂の上の雲」 要 約 ]  
東郷連合艦隊司令長官と上村第二艦隊司令長官が東京にもどったのは、この月の三十日である。新橋停車場に降りると、数万の群衆が押しかけて、かれらを歓迎した。

両人は、宮内省からさしまわされた馬車に乗って登営したが、幕僚たちはそのまま海軍省にいった。

夕刻、真之は兄の好古の留守宅へゆき、老母と嫂の多美子にあいさつした。母親のお貞はすでに七十八歳で、出征前にくらべると、ひとまわり小さくなったような感じで、真之はどうにも彼女を正視することができず、ついにお貞から、「淳よ、オマイ、妙にこそこそして」と、苦情をいわれた。

いまも、真之は、(もしこの母親が死んだらどうしよう)という思いで、感情がどうにもならなくなっている。そういう真之という男の性分は、この末っ子を一番可愛がってきたお貞にはよくわかっていた。

真之は日没後、青山高樹町の新居にもどった。そこに、去年の七月に娶った妻のすえ子が夕食のしたくをして待っていた。

産経新聞連載 新聞小説要約  下高原健二挿絵 切抜