[ 「坂の上の雲」 要 約 ]  
ともあれ、船がドックにはいっている。船乗りにとって、この期間は休養であり、真之も毎日軍令部にだけは出てゆく。が、早めに帰ってくる、

帰宅すると、「枕」と、すえ子に言い、軍服のまま寝転んでしまう。じっと天井を見つつ”けている。
ともあれ、自宅での真之は飯を食っている以外は、ずっと天井をながめている。真之がながめている天井は、すえ子にとってはただの天井だが、真之にとってはそこに正確無比な日本列島があった。

内海があり外海があり、海は東シナ海から、日本海、太平洋、オホーツク海までひろがっている。

(バルチック艦隊は、どこをどうくるか)という課題が、日本国そのものの存亡にかかっていた。

日本としてはこれを邀撃する艦隊を一セットしかもっていないため、太平洋と日本海の二ヶ所で待ち伏せることはできないのである。

バルチック艦隊がやってきてからの作戦は、すべて真之の仕事である。至上命令として要求されていることは勝つというような簡単なことではなかった。一艦のこらず沈めるという、世界戦史上かつてない要求が、連合艦隊を拘束しているのである。

三艦、四艦が生き残ったりしてウラジオストックへ遁走させれば、それが日本の海上輸送の大脅威になって満州における陸軍の死活問題になるであろう。真之が、毎日、気がおかしくなるほどに考えこんでいる課題は、これであった。

産経新聞連載 新聞小説要約  下高原健二挿絵 切抜