[ 「坂の上の雲」 要 約 ]
この大艦隊は、万里の波濤だけではなく、外交の海を航海していた。

このさきの寄港や薪水の供給ができないと極東の海にたどりつけるのかどうかという憂色が、幕僚たちの胸を占めた。

「なぜ、リバウ港を出る前に、外交の手を打っておかなかったのか」「ロジェストウェンスキーが悪い」と、プリボイはいう。

が、かれは専制国家の国において皇帝のお気に入りの廷臣であったとはいえ、外交の責任まで負う職務ではなかった。ただかれは、そいいう外交上の工作をしておくことについて、「そういうものは不要である」といったことは、たしかである。

バルチック艦隊のゆくさきざきで、どの国がロシアの威をさまたげるであろう、と誇り高くおもっていた。

「外交上の下ごしらえはご無用」と、ロジェストウェンスキーがいうと、皇帝もそのような方針をとった。外務大臣がもはや口出しすべき隙がなかった。

セオドル・ルーズベルトは、“専制国家は、結局はもろい”と、日露いずれが勝つかという予想をたてたときに、日本は皇帝専制でないから勝つだろうといったことがあるが、専制のもろさは、そういうところにあらわれてしまっていた。

産経新聞連載 新聞小説要約  下高原健二挿絵 切抜