[ 「坂の上の雲」 要 約 ]
本来、北洋を棲息地にしているロシア艦隊が、暑いアフリカ海岸を航行したのは、これが史上最初のことであった。軍艦というこの鉄鋼のかたまりが火を噴きそうに熱くなり、たれもさわることができなかった。

士官でさえ、もはや威儀を正しておれなくなり、水兵のようにしてごろ寝した。軍隊秩序というものは、ただこれだけのことで微妙な部分が腐敗してくるものであった。

各艦に故障が続出した。輸送船マライヤが、機関に故障を生じたため、全艦隊が停止しなければならなかった。よくしらべると機関の故障ではなく、操艦の不注意で、浅瀬で底を擦ってしまい、キングストン弁に、土砂が入ったためとわかった。

この種の事故は、軍規整然たる海軍には、ふつうおこらないものであった。

沖合いに出てほどなく、戦艦ボロジノが“われ故障せり”と信号をかかげた。やがてボロジノの二つの機関のうち一つが動くようになった。全艦隊は、ようやく走ったが、わずか五ノットだった。

産経新聞連載 新聞小説要約  下高原健二挿絵 切抜