[ 語り部倶楽部 ]

境内には焼き団子の醤油の焼ける香ばしい匂いが漂っている。昔あって、いま巣鴨にないのはカーバイトの“アセチレン・ランプ”の匂いくらいなものだ。参拝客は、それぞれ馴染みの店の前で話込んでいる。その光景は、まるで砂漠から久しぶりに、オアシスに出てきた砂漠の民のようである。人が恋しいのだ。久しぶりに人と話した、と言うお年寄りさえいる。人と会話ができるだけでも御利益のうちなのだろう。だが、参拝に来る年寄りすべてが善男善女とばかりは言えない、たまには“年寄りの不良”も来る。けっこう“年寄りの不良”というのもいるものだ。
お年寄りで偽悪ぶる“不良”もなにか可愛げがある。いまだに若手の“傷痍軍人”などがアコーディオンとハーモニカで「ここは御国の何百里・・・」とか「モンテンルパ・・」などの歌を奏でている。南方戦線に出征した00師団00兵団で名誉の負傷をしたという話をきいて「ウソと分かっていても身につまされてお金を入れてしまいたくなる」と言うお年寄りもいる。こんなところは、全国広しといえども巣鴨くらいのものだろう。
巣鴨のとげぬき地蔵尊の縁日は毎月4日、14日、24日である。まあ、見事なほどの露店の数である。“美は乱調にあり”とも言われるが、とりすましたデパートなどと異なり乱雑、喧騒、ゴチャゴチャさかげんがなかなか良いと人気である。そこんなところが、この町の魅力なのだろう。