真理は隠れている。探し出すのはあなた自身だ。 小野しまと
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ここのところ、匂いをテーマにしたブログが続いているので、ついでに匂いとは何かという根本的な問題にも触れてみることにしよう。
匂いといっても、ここでは「清潔な匂い」が問題なのだが、あなたは清潔な匂いとは何かということを考えたことがあるだろうか。もし、そうだとしたら、この際、ぜひともご意見を聞かせてほしいものである。
残念ながら、このブログに、清潔を問題にしたコメントはまだ一度も届いていない。清潔というのはたいへん主観性の強い観念であって、私ひとりの考えで答を見つけ出していくわけにはいかない。みんなで語り合う場がどうしても必要なのである。
そこで、一つの問題提起として、もしくは一つのモデルとして、私自身の答をあらかじめ言っておくことにしよう。「清潔な匂いというのは、匂いの無い状態だ」というのが私の考えである。拙著『清潔マニアの快的人生─永遠のキレイを求めて』(ビワコ・エディション版125頁 www.e-biwaco.com)にもそのことを書いた。
嗅覚にとっての清潔は無臭だということなのだが、そんなことを言うと、大反対をする人もいるだろう。匂いが無いことを匂いと呼ぶなんて矛盾だ。匂いがまったく無ければ、清潔な匂いなどということも問題にはならないだろう、と。
確かにそうなのだ。この世に匂いなどというものが無ければ、匂いなど問題になるはずがない。世界はあらゆる匂いで満ちている。良い匂いもあれば、悪い匂いもある。
そこで、世界を無臭と有臭に分け、匂いのあるものの内でしか「清潔な匂い」とか「良い匂い」などといったことを問題にしないという、ごく現実的な物の見方をする人たちもいる。
そういう人たちは、地上の様々な現象の中から様々な答を出してくる。例えば、清潔な匂いとは、山頂や草原で出会う澄んだ空気の匂いだと言う人もいれば、洗い立てのシーツの匂いだと言う人もいる。
前者が自然派だとすれば、後者は人工派であろう。花々のほんのりとした香りが好きな人もいれば、自然から抽出された香料や洗剤の匂いが好きな人もいる。現実的な答を出そうとすれば、それぞれの立場から色々な意見が出てきて、収拾がつかなくなることも覚悟しなければならない。
私のように、清潔な匂いは無臭にほかならないと考える者の論理は、そういう様々な現象としての匂いを突き詰めていけば、結局は匂いの無い状態に辿り着くという考え方なのだ。
理論的に一つの原理を求めようとする立場なのだが、現実にはそんな状態が有り得るのかどうかということが問題になる。ちょうど真空が有るか無いかという議論に似ていて、匂いの絶対的な無などというものが、果たしてこの世に有り得るのだろうか。
実は、私たちがふだん使っている除臭剤が、理論的には、このような匂いの絶対的な無を目指しているのだから面白い。除臭剤の究極的な目標は、悪い匂いであろうが、良い匂いであろうが、とにかく匂いを消し去ることにある。
と言うのも、匂いの良し悪しには個人的な差があり、或る人にとっては好きな匂いでも、或る人にとってはイヤな匂いだということがあり得るからである。結局、誰もが認める原点としての無臭を目標にし、そこに限りなく近づいたあとは、何か別の匂いを微かに漂わせるというのが、除臭剤の基本的な方法だと言える。
もともと悪臭のある場所から完全に匂いを抜き去ることは難しいし、またそれが出来たとしても、まったくの無臭であっては、除臭剤の実用的な効果を確認することが出来ない。悪臭を無くし、清潔な匂いや良い匂いに変えたと言うためには、限りなく無臭に近い微かな香りを匂わせて、そこに原点としての無臭があることを示さなければならないのである。
かつてトイレなどで使われていた香料は、除臭効果に加えて、何か特別な香りを与えるものか、あるいは除臭効果など最初から問題にせず、匂いには匂いをという発想で、悪臭にはそれに対抗できる強烈な匂いをぶつけてくるものが多かった。
トイレにそれを振りまくと、もともとの悪臭はそのままでも、それを上回る強烈な香りが充満するので、何となく良い匂いになったと錯覚させるのである。
しかし、人間の嗅覚というのは微妙なもので、それがどんなに良い匂いであっても、それを使う場所や、何に使うかという目的が固定化されると、ほとんど悪臭に近いものになってしまうことがある。
例えば、外出から帰ってきて玄関に入ったとたんに、プンと強烈な花の香りが漂ってくる。トイレにいつも撒いている香料の匂いなのだ。トイレが家中に匂っていると思うだけでも、その甘ったるい花の香りが、何か気持ちの悪いものにさえ感じられる。
用を足している最中でも、その匂いが鼻を突いてかなわないということがある。そこから逃げ出したいと思うこともしばしばだ。こんなことなら、まだ自然のままでいたほうがよかった、などと思ったりする。
匂いの固定観念が、好き嫌いの感情で定まるということは、前回のブログでも述べた。納豆好きの人には、あの匂いが芳香のように感じられるのに対して、納豆嫌いの人にとっては、耐えられないものに思えるらしい。
生臭さに敏感で魚を食べない人と、肉の匂いが嫌いで肉を食べない人がいる。即席めんが全く食べられないという人を知っているが、口にすると、どうしても微かな肉エキスの匂いを感じてしまうそうだ。これも、もともと魚や肉が嫌いだから起こることで、匂いが先にあるわけではないであろう。
日本人は、加齢臭、口臭、体臭といったことを気にし過ぎるように思うのだが、本質的に人間嫌いなのであろうか。オジサンが嫌いだから、オジサンの匂いがイヤだという傾向が、その逆よりも多いような気がするのである。これは、フランスで生活し、人間好きと言えるフランス人と付き合った経験から特に感じることなのだ。
もっとも、匂いの固定観念と好き嫌いの感情には、相互的な作用もあって、私も若い頃、中年男が頭に塗っているポマードの中にひどく嫌いなものがあった。時たまその匂いに出会うと、べったり固められた頭髪につい目が行ってしまい、それを使っている男にさえ憎らしさを感じたものである。
しかし、今になって考えてみると、中年向きのポマードとしてそんな商品をわざわざ造り出した化粧品会社にも責任があると言えよう。何か社会全体が、年齢や習慣によって人間を特定し、異質なものを差別する態勢にあるような気がしてならないのである。
これはオジサン用の香水よ、これはオジイサン用の匂い消しよ、などといった声が高まると、オジサンやオジイサンも不安に駆られ、自信を失って、お仕着せの匂いを身に付けてしまうのだ。これがかえって、加齢臭のスタンダードになってしまう。
匂いに対しては常に「攻め」の姿勢を取り、ニオイにはニオイをという発想から抜け切れずにいると、すでに言ったような強烈な芳香剤を使ってトイレの悪臭を隠そうとする方向と似たようなことになってしまう。
私も日本にいる間は、色々な芳香剤をトイレに使って、その効果を試してみた。しかし、そのたびにその香料の匂いが嫌いになった。
街なかを歩いていると、突然似たような匂いとすれ違って驚くことがある。トイレがすっかりそのまま歩いているような気がして、匂いの固定観念の強さにビックリさせられるのだ。
フランスは香水の国だが、そういう経験は全く無かった。男も女も意外に控え目で、過度な香水を感じさせる人に出会ったことはまず無かったと言ってよい。そう言えば、フランスのレストランやカフェでも、トイレに特別な香料を使っている形跡は全く無かった。
日本のトイレよりお世辞にも清潔とは言えないのだが、どういう処理をしているのか、ほとんど無臭に近いのだ。ひょっとしたら、匂いの閾値が高いということも有利な条件になっているのかも知れない。
ただ、トイレは無臭ならば何でも良いというわけではなく、匂いの清潔とともに見た目の清潔も大事だと言うことができる。もちろん嗅覚や視覚のみならず、殺菌という真の意味での清潔が重要であることは言うまでもない。
パリでそういうトイレに出会ったのは、いずれも日本人の経営するカフェやレストランやビューティ・サロンであった。私たち夫婦にとって、そういう店が最高の休息の場になった理由の一つはそこにある。
そこで使われている除臭剤は、その基本的な性質に戻ったもので、まずは匂いを除去するということに主眼が置かれており、それに微香性のほんのりとした香りが付けてある。限りなく無臭に近い香料と言ったらよいであろうか。
私は、さすがに日本人の経営する店だといたく感心し、また、匂いに対する「守り」の姿勢をそこに見いだしたのだが、これにはフランス的な匂いに対する感性も多少は影響しているのかも知れない。
日本に帰国し、私は、このような除臭剤が販売されていることを知った。時代は明らかに進んでいるのだ。私はこの除臭剤をトイレで使い始めて、ようやく匂いの妄執から解放されたような気がした。
原理的なことはよく分からないのだが、悪臭は雑菌を殺すことで取り除かれるらしい。あとは微香性の香料なので、便器の内部だけでなく、外側の座席や床・壁など、どこへでも噴霧出来るのがウレシイ点だ。
日本人の清潔志向が、新しい可能性を求める方向に進んでいる証拠と見てもよいのではないだろうか。
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清潔クラブ─清潔について語ろう
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