<< 前のページ  |最新号|  次のページ >>
卒業が決まりました!が、ちょっとしたハプニングもありました。
<じつは、朝食の後犬にブラシをかけている時ぐらいから耳の調子がおかしくなってしまったのです。飛行機が着陸する時のように鼓膜に圧迫感があって、音がモヤモヤと聞こえる感じ。これから最後のテストだというのに、信号の車の流れがしっかり聞き取れるだろうか。でも、テストを受けないと卒業はできません。>
テストのコースは前もって教えてもらっていて、頭に入っています。信号を渡ったり歩道橋を探したり、自分の耳と判断力、そして犬の目と判断力をしっかり使うことができるかどうかが試されます。車でスタート地点まで行き"Let's go!"耳の調子はまだおもわしくなく、それでも車の流れはつかむことができたし音声信号機もあったりして、途中ちょっと危なかったところはありましたがなんとかクリアすることができました。
テストが終わってからの昼食は誰も神妙な面持ちで口数も少なく、これから言い渡される運命に思いを馳せるばかりでした(少なくとも私はそうでした)。
私の順番がきて高鳴る鼓動を抑えながら部屋に入り理事長の向かい側の椅子に座ると、理事長の第1声は「英語の使用者証に掲載するニューヨークの住所を早くください。」でした。使用者証というのは、盲導犬を使うことを正式に認められたことが書いてある小さな証明書です。例えるならば運転免許証のようなものでしょうか。そんな持って回ったような卒業の言い渡しでしたが、じわじわと熱いものがこみ上げてきて、同席していた私の指導員さんと握手を交わした時にはもう涙がこらえられませんでした。私も年とともに涙腺が弱くなってきているのかもしれませんね。
明日は卒業式です。天気は心配ですが、気持ちは晴れやかに協会を後にしたいと思います。
さて、私のアイメイトの名前はドロシー。つぶらな瞳と巻き毛が特徴のイエローラブの女の子です。オズの魔法使いのようにこれから一緒に大切なものを探しに行きます。皆さん、応援してくださって本当にありがとうございました。これからもドロシーともどもよろしくお願いいたします。
アイメイト協会での生活も順調にいけばあと10日を残すところとなりました。今日からは訓練生全員でバンに乗り吉祥寺の近くへ行き、順番に駅の周辺を歩いています。
朝は商店街に荷物を搬入するトラックを避け、午後は買い物に繰り出した人の波を縫い、歩きます。協会と駅の往復の車の中では、運転席の後ろの座席には3人が座り、その足元にはそれぞれのパートナーが、犬同士それぞれのお知りに顎を乗せて寝ています。なんともかわいげな光景です。
毎日寝食をともにする私たち訓練生同士もずいぶん打ち解けて、お互いに冗談を交わすようになってきました。2頭目以降の人がこれまでの体験談を披露すれば1頭目の人がそれに対して質問をぶつけます。また、皆違う地域からきて、違うバックグラウンドを持っているので仕事やこれまでの経験について話したりするので、食事の時間はにぎやかです。
そして、今日、新しいハーネスをいただきました。ピリリと気が引き締まります。これまではすでに使われていたハーネスを使っていたのですが、卒業が近くなってくると新品のハーネスに換えて慣らし始めます。まだ皮が硬くてなかなかスムーズにベルトを通すことができません。でも硬くてしっかりしているので、犬の動きがより細かくハンドルを持つ手に伝わってきます。このハーネスがだんだん犬の油を吸い、私の手垢がつき、雨に濡れ、ものにかすり、太陽に照らされて体になじみ、ハンドルも少しずつしっくりと私の手の中に納まって感じられるようになっていくのでしょう。よく手入れをして使えばハーネスはなんとも味わいのある色合いに皮ってくるのだと聞いたことがあります。ハーネスに年季が入って貫禄が出てくるのにつれて、私たちもいい味のカップルになれるといいなと思います。
新しいパートナーと出会って1週間が経ちました。
初めて彼女の名前を教えてもらい、その名前を口に出す瞬間の緊張。彼女は私にどんな反応を示してくれるのか。最初に出す指示はこちらに来るようにということです。
私のところにやってきた彼女は、全身で挨拶してくれました。指導員さんのリードから私の新品のリードに付け替え、ここから彼女は私に託されることになります。それを知ってか知らず課、彼女は私の顔を舐め、尻尾を振って私の膝に前足をかけてきます。
それから、1週間。毎日一緒に歩いてきました。始めのうちは子とあるごとに後ろをついてきてくださる指導員さんを振り返っていた彼女でしたが、それもほとんどしなくなりました。
ある日のこと。道を歩いていると彼女がゆっくり立ち止まりました。曲がり角はまだ咲きだしとくに障害物など気にするようなものは何もないと言われたのでそのまま進むように指示を出したのですが、彼女は何かを迂回しました。指導員さんがよく見てみると、道に犬の糞がへばりついていたとのこと。そんなものにまで気がつくとは大したものだと、いまさらながら関心しました。
そして今日。曲がり角で立ち止まり、そこで彼女を褒めてから前に進むよう指示をすると、横から車が飛び出てきました。彼女は急いで立ち止まり、後ろへ後ずさりします。この動きがベテランのアイメイトなら淡々とこなすのですが、彼女はまさに一生懸命という感じで、思わず目頭が熱くなりました。車の流れにも気を配り、そして曲がり角にも気を配り。彼女の真剣さとここまで彼女を育ててくださった指導員さんの信念に改めて感動しました。
ハーネスを通して伝わってくる彼女の足取りも、確かさを増していくようです。私もハーネスの握り方や姿勢など、崩れたり忘れたりしたことを改めて教えていただいて、毎日が新鮮で気を抜くことはできません。このこと一緒に卒業して家に一緒に帰りたい。それまでの2週間を楽しみながらお互いにもっと知り合っていきたいと思います。
卒業までは、彼女は正式には私のアイメイトではありません。ですから、私が彼女と一緒に家に帰ることを正式に認められてから、つまり彼女が私のアイメイトになった時、ここに名前をお知らせしたいと思います。どうぞ楽しみにしていてください。
桜も散り、学校も会社も新年度を迎え、4月ももう後半です。私の周りでもこの4月、生活の変化のあった人が何人もいます。そして、私とアストロもそれぞれ旅立ちの時を迎えることになりました。私は新しいパートナーと歩くために訓練を受け、アストロは彼を心から愛してくださるご家族のところへ行きます。
アストロと歩き始めたのは8年前の夏でした。私の前に表れた彼はりりしいというよりは大きな体でホンワカした感じで、最初から手のかからない子でした。協会を卒業してからその開放感ではじけてしまったらどうしよう・・・と少し心配しましたが、最初から最後まで歩くのはゆっくり。いたずららしいいたずらも殆どしませんでした。アイメイト協会を卒業して我が家にやってきてしばらくしてからのこと。お昼の支度をして少し席を外して戻ったら、お膳の上にあるお皿が空っぽ。乗っていたはずのハンバーグが4つ、忽然と消えていたことがありましたが、これももう時効ですね。ちなみにアストロは部屋の隅で、大きな体を丸めてちんまりと伏せていました。
仕事中のアストロもゆっくり、おっとりでした。前を年配の男性がゆっくりゆっくり歩いていると、私が何も言わなければひたすらその後をゆっくりついていくようなタイプでした。皆で歩いている時は先頭にいてもどんどん先を譲って、気づいたら一番後ろにいるということもしょっちゅうでした。その分慎重で、狭い道で車が向こうからやってきたら、20メートルくらい先にいても避けて待つ、石橋を叩いてわたるタイプでした。
彼と出会った頃、私はケーナという楽器に出会いました。何の因果で僕がこんな耳障りな音を出す人と一緒にいなきゃいけないんだ!と自分の運命を呪ったことがあった(?)かもしれません。でも、つきあっているうちに諦めてくれたのか、私がライブなどで演奏している時はすることもないのでステージの上でも平気で居眠りを決め込むまでになりました。
飛行機も最初は大嫌いでした。それなのに初めての空の旅は成田からオレゴンまでの9時間ものフライトでした。上下左右に動くわけのわからない煩い乗り物に乗せられて、何が何だかわからなくてさぞ怖かったことでしょう。けれども今では乗ったとたんに手足を伸ばして大の字になって寝てしまいます。最初のパートナーのディアとも飛行機の旅はしましたが、アストロとはさらに何度も海を越えました。ニューヨークの往復だけでなく、オレゴン、フロリダ、カリフォルニアにも行きました。彼と飛んだ距離は、ざっと計算して148,601マイル、239,144キロでした。
人に褒められてもおごることなく、皆から見られても臆することなく、そして時には怖がられて大きな声を出されても冷静に、彼はただ淡々と仕事をしてくれました。彼は私だけでなく、私が大切に思う人々を、彼なりの方法で愛してくれました。日本とニューヨークの二重生活がストレスになった時期もあるはずです。それでも、彼は私といることを楽しんでくれていたようでした。人生をがらりと変える決心をして、ニューヨークでの生活を始められたのには、傍らにいつも彼の温もりがあったことが大きな励みになりました。最初のパートナーのディア、そして2代目のアストロ。私に連れ添ってくれたパートナーたち。何にも変えられない信頼すべき存在です。
私と一緒にいて幸せだったかアストロに尋ねてみても、彼は私の足元で寝息を立てたり、大きなあくびをしたり、何だか返事をはぐらかされているみたいですが、これまで文句も言わずに(ほんとかな?)つきあってきてくれたので、この現役生活、まんざらでもなかったと思ってくれているのかなと信じたいです。
アストロと一緒に私も沢山の新しい場所を覚えました。仕事場、レストラン、ライブハウス、スーパーマーケット、デパート、ケーキ屋さん、ヨガスタジオ、ボーカルスクール・・・。新しいパートナーと歩くようになったら、アストロと行った場所を教えて、さらに新しい場所を開拓し、1つ1つ一緒に経験を積み重ねていくことになります。皆さんのおかげで本当に充実した8年になりました。アストロはもうすぐ現役は引退しますが、これからもアイメイトOBとして皆さんにお目にかかることがあるかもしれません。私は私で、新しいパートナーとまた1から始めますので、訓練がうまくいって卒業できても、最初はかなりぎこちないカップルに見えることでしょう。でも、長い目で見ていただいて、今後もおつきあいのほどよろしくお願いいたします。
私とアストロをめぐり合わせてくださった皆さん、その愛情とご苦労に感謝いたします。
私たちをセットであたりまえに受け入れてくださった皆さん、私が気づかない間に迷惑をおかけしていたことがあったかもしれません。それでも仲良くしてくださってありがとうございました。
そして、アストロ、これまでいつでもどこででも私と一緒にいてくれてありがとう。私に寄りかかってくれて、私を強くしてくれてありがとう。これからはべつべつだけど、お互いに幸せになろうね。沢山の優しさをくれて本当にありがとう。ずっと愛しています。
帰国して10日経ちました。朝目が覚めて、サイレンやトラックのエンジンの音ではなく、小鳥たちの歌が聞こえてくるとほっとします。夜はまだ早めに眠気が襲ってくるので、入浴中に意識が遠のきそうになることがあります(危ない、危ない)。
さて、今日のお話。
帰国する2週間くらい前のこと。その日は朝1番でアストロを動物病院に連れて行きました。旨の辺りに小さなしこりが2つみつかったので、年齢的なことも考えて脂肪腫かなとは思っていたのですが、一応念のために診てもらうことにしたのです。知人から紹介されたその病院は大学付属の建物で、年中無休、周辺のニュージャージーやコネチカットなどからも患者さんがやってくるのだとか。そして、病院の方針で、盲導犬は治療費がかからないのです。
テレビを見ながら待合室で待っていると、早速呼ばれました。先生の後について、3条間ほどのオフィスに入ります。簡単に私から様子を説明し、先生が触診をします。おそらく脂肪腫だろうけれど、念のために組織の検査をしましょうということになり、尻込みするアストロを連れて先生が検査室へ。5・6分も待ったでしょうか。先生に連れて行かれる時の足取りとは違ってアストロがいそいそと戻ってきました。検査の結果が出るのは数日後ということで、いつものアストロらしからぬ速足で病院をさっさと後にしました。
幾つか用事があったので、この辺りで済まそうか、1度家に戻ろうか迷いましたが、天気も良かったしちょっとこの辺りを探検してみようということに。大きな59丁目の通りに歩いて戻り、まずは現金が必要だったので銀行を探します。私の銀行は大体どこの支店でも1台はバリアフリーのATMがあるので、特別どこかの店でないとダメということはありません。どこの支店に飛び込んでも使えるATMがあるのは本当にありがたいことです。でも、本当はどこのどのATMでも使えるのが一番いいんですが。道行く人に尋ねて入った銀行でお金を下ろし、これで1つミッション完了。次は腕時計の電池が切れてしまったので交換してもらうことにしました。
銀行の隣にホームセンターのような店があったのであまり期待はしていませんでしたがそこに入ってみると、案の定時計の電池は扱っていませんでした。けれども、対応してくれた店員さん(ガードマンかもしれません)がとても親切で、近くの宝石屋の場所を教えてくれました。普段アクセサリーすらあまり身に着けない私ですので、ちょっと気後れしながら店に入ると、ちょうど暇な時間だったらしく店員さんがワラワラと集まってきました(と言っても4・5人ですが)。彼らの興味の対象はアストロでした。時計の電池を変えてもらっただけなのに10分ほどもそこにいて、おしゃべりしてしまいました。自分もラブラドールを飼っているとか盲導犬にやたらに触っちゃいけないなんてずいぶん生きていたけど今日初めて知ったよとか・・・。こんな風に油を売ってていいのかなと思いましたが、私が心配することではないので帰りがけに「今度はボーイフレンドを連れて指輪でも会にきます」と言って店を出ました。
外に出ると正午を過ぎていました。そろそろおなかがすいてきたのでレストランでも探そうと道行く人に尋ねます。数ブロック先の店を教えてもらい、テクテクと歩いて、もうそろそろだなと思う頃にまた人に聞きました。私が声をかけたのはとても人の良さそうなカップルでした。男性のほうが「その店はわからないけど、近くに僕のお気に入りの店があるからよかったらそこに案内するよ」と言われ、せっかくなのでそこに行くことに。店の前まで案内してもらうと、彼らもそこで昼食を摂ることに決めたらしく、私たちは3人で同じブースに座りました。ニューヨークで知らない人と食事をしたのは初めてでしたが、会話も弾み楽しいランチになりました。そろそろ店を出ようかということになり私の分がいくらか尋ねると、ランチを楽しくしてくれたお礼におごってくれると言うのです。1度は断りましたが、ぜひと言われてそれならありがたくご馳走になることにして、私は3人分のチップを払うことで交渉成立。彼らは自分たちも同じ方向に行くからと、近くの地下鉄の駅まで送ってくれました。
おなかも満腹、心も満腹で階段を下りると、何だか様子が変です。アストロが私をエスカレーターに誘導します。たしかこの駅にはエスカレーターなんかなかったはずなのに・・・。近くにいる人に聞いたら、このエスカレーターを降りれば6番電車に乗れるというのです。半信半疑でとりあえず下りのエスカレーターへ。下る、下る。どんどん下る。これはやはりおかしい。すると、さっき私に6番電車はこれでいいと教えてくれた人が後ろからおいかけてきて「ごめんなさあい!6番はこれじゃなかったわ!そこまで案内しますから。」と。その頃までには私もこの駅が乗ろうとしていた駅よりも1つ南の駅だったことに気づいていました。ちょっと遅すぎますね。
地下のE列車のプラットホームをひたすら歩き、6番電車のホームへ向かいます。すると、遠くからギターの弾き語りが・・・。「ベ〜サメ〜、ベサ・メ・ムーチョ・・・」ずっと会えずにいた私の大好きな地下鉄シンガー!前はしょっちゅう最寄り駅のホームで彼の声が聞けたのに。あの電車の騒音にも負けない声量と、清涼感のある温かな歌声。最近はこの辺りで歌っているのね。元気そうでよかった!本当はもっと聞いていたかったけれど、案内してもらっている途中だったので「今度会ったらぜひ名前を教えてください」と心の中で話しかけながら通り過ぎました。
無事に6番電車に乗り、駅の階段を上ると、2月の太陽が輝いていました。ドラマチックな事件は1つもなかったけれど、とてもラッキーな、心の底から温まるような1日でした。ちなみにアストロの胸のしこりは、予想通り良性の脂肪腫でした。
<< 前のページ  | 最新号 |  次のページ>>