日本でも報道されたかもしれませんが、歴史上初めて、北朝鮮にアメリカのオーケストラが渡りました。ニューヨークフィルのピョンヤンでの演奏の録音をラジオで聴きながら、今これを書いています。指揮者のロリン・マゼル氏の曲の紹介にハングルの逐次通訳がついて、ドボルザークの「新世界」を演奏中です。音楽は国境を越え、北朝鮮の人々にどんな思いをもたらしたのでしょうか。
さて、今日のお話。
メトロポリタン美術館で月に1度、視覚障害者のための絵画教室を始めたというので行ってみることにしました。絵を画くことに興味があったと言うよりはどんな風に教えるんだろうという好奇心で申し込みをしました。
1月12日、土曜日。参加者は私を含めて6人。全盲だったのは私だけのようでした。20条くらいの教室に入り机の前に座ると、目の前にわらばん紙と画用紙が置かれています。講師のパメラさんから木の蔓で作った細い筆墨を手渡され、わらばん紙に好きなように線を描きます。筆墨の感触に慣れたところで参加者に彫刻が1つずつ渡されました。片手でその彫刻に触れながら、もう片方の手で彫刻のアウトラインを画くというのが最初の課題です。立体的なものを紙に画くというのは生まれつきの全盲者にはかなり難しいことなので(得意な人もいるかもしれませんが)これは困ったなと思ったのですが、私のところに来たのはヌードの男性の彫刻で比較的単純なつくりだったので、とりあえず考えていても仕方ないからやってみようと墨を手に持ちました。高さが20センチほどの小さな彫刻なので、左手でそれに触れながら右手で同時に画くと、自然に画も小さくなってしまいます。で、なるべく紙いっぱいに画こうとすると、今度は体の部分のバランスが彫刻と違ってきてしまいます。上半身の太さのわりに足がやけに細くなってしまったり。う〜ん、なかなか難しい!とうなりながらなんとか画き終えると、出来上がった画を皆で見比べるというのです。私はもちろん他の人の書いた画を見ることはできませんでしたが、かなり複雑な彫刻を渡されていた人もいて、こんなのがきていたらお手上げだっただろうなと思うものもいくつかありました。私の絵の順番が回ってきてドキドキしていると、皆お世辞で褒めてくれたのですが、1つ講師のパメラさんがとくに褒めてくれたのは、私が一筆で最初から最後まで画ききっていたことでした。そうすることで安定した線になっていると言うのです。どうして私がそうしたかというと、私に類まれなる画の才能があった、のではなく、ただ単に筆墨を紙から離してしまうとどこまで画いたかわからなくなってしまうからという単純な理由でした。でも、それはじつは画を画く上で大切なテクニックなのだとパメラさんが言っていました。
すべての画の講評が終わると、今度はべつの種類の筆墨を使ってもう少し詳細に彫刻を画く練習をしてその回は終わりました。
そして2月23日。今度はオイル・パステルが渡されました。手触りとしてはチョークとクレヨンの中間といったところでしょうか。紙に画いた時、なぞった跡が触ってわかりやすいのではないかということで使ってみることにしたようです。今回の参加者は10人。講師が1人では間に合わないので、アシスタントが2人ついていました。
今回は教室を出てギャラリーのゴッホの絵の前に座り、講師の説明を聞きながらその画を模写するとのこと。ゴッホの絵は美しいばかりでなく、線の区切りがはっきりしているので、初心者にも比較的模写しやすいのだということでした。
さて、小さな折り畳みの椅子に座り、膝にボードを置いて、格好だけはそれなりです。模写と言ってもアウトラインを画くだけ。今回もかなり苦労しました。私たちの課題に使われたのはゴッホのオレアンダーという有名な絵画だそうで、テーブルの上の花瓶にオレアンダーの枝が生けてあり、隅に本が置いてあるという絵です(実際はもっと詳細に説明してくれました)。説明を聞いてそれを立体的にイメージできても、紙の上にうまく表すことができません。するとパメラさんが、紙の右下から4インチくらいのところから斜め45度の線を引いて、というように具体的にどうパステルを動かすかを説明してくれたので、なんとかついていくことができました。アシスタントの助けを借りてなんとか画き終え、教室へ戻りました。
その日のもう1つの課題はチューリップを画くこと。花の開いたものとまだ蕾のものを渡されてそれを画きます。これは先ほどのゴッホよりは簡単だったので、なんとか1人でできました。
パステルはたしかに筆墨よりは跡がわかりやすかったのですが、それでも触っているうちにわからなくなってしまうのでこれでは複雑な画は無理だろうなと思いました。ゴッホの絵を真似するのは100年早いかな。