この本面白かったよ 猫ばあ ブック・レポート
vol.58 2008.3.7
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猫と本が好きな団塊世代です。面白かった!読んでよかった!誰かに読んでもらいたい!と「!」の付く本を紹介、というより「ねっ?おもしろいでしょ」と言いたくて、そして面白 いと思う本があったら紹介して、と初めてのブログを開きました。女性著者の小説、エッセイが多いかも。理数系、スポーツ物、時代物はゴメン、ほぼゼロです。
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戦後、といっても、もう63年も経ってしまったので、ぴんと来ない人の方が多いかもしれません。団塊世代は、「戦争を知らない子供たち」ではありますが、両親から直接戦争の話を聞くことも、また防空壕や、壕舎(防空壕に屋根だけかぶせた住居)、「傷病兵」を目にすることもありました。不自由な身体でアコーディオンを弾き、あるいは小銭を入れる空き缶を前にただ座っている「元兵隊さん」を悲しくて正視でなかったあの気持ちは忘れられません。
昭和20年代後半から30年代、男の子は黒、女の子は赤のランドセルをしょって小学校に入学。初めての教科書は「ハナ ハト マメ マス」と書いてあったと父が言えば「サイタ サイタ サクラガ サイタ」だったと母。さて、自分の教科書はなんだったのかしら。「せんせいおはよう みなさんおはよう ランドセルがたがたランランラン」という歌で1日が始まったことは覚えています。
戦後、なんて書き始めたらどんどん話が止まらなくなってしまいました。いいたかったのは、戦後の国語教育を受けたので、旧仮名遣いを読むのが苦手、毛筆書きの変体仮名なんてお手上げ、残念だぁ、ということ。戦前の面白い本が読めないのですから。
でも、昭和8年に上梓された「百鬼園随筆」は、新仮名遣いで、文庫本になっていたので、読んでみました。飄々としたおかし味のある線描きのカバー装画は、芥川龍之介。芥川の絵なんて初めてみました。本の中身と雰囲気がぴったり。
目次はまず「短章二十二篇」。文字通り短い随筆22。次ぎ、「貧乏五色揚」として5つ、「七草雑炊」として7つの作品がまとめてあります。この題名、なんともとぼけていますね。貧乏、借金話が多いです。
経歴を見ると、東大独文を卒業後陸軍海軍の教官、法政大学の教授など立派なものなのに、なぜそんなに借金をしなければならなかったのかわけがわかりません。当時のエリートでしょうに。
P16「虎列刺」
「夜半に起こされたので、びっくりして目を醒ましたら2階の廊下をばたばたと人の歩く音が聞こえた。田舎の海水浴旅館の2階に虎列刺が出来たらしいのである。」虎列刺?読みはコレラ。コレラ騒ぎのことを少年時代の思い出として書いています。薬を飲まされたり隔離されないようにこっそり逃げ出し「岩山の陰で、柴を炊いて雪平の中のおかゆを煮た。父と母がどう云う料簡でそんなことをしたのだかわからない。」そんな風に家に逃げ帰っていたところ「海水浴から逃げて来た者はだれだだれだと調べられた、とその様子も書いてあり、当時のコレラ発生時のことが活写されています。
乗り物が好きなことでも知られ、「阿房列車」などの作品もありますが、この本にも「一等車」という短編が収められています。わずか4ページながら汽車の匂いまでしてきそうな文章です。
P20 < 私は汽車の1等に乗ったことがないから、乗ってみようと思い立って、上野から仙台までの白切符を買った。着物は祖母の着古した、蚊帳のような色の帷子を素肌に着て、朴歯の下駄を穿き青いズックを張った小さな手鞄を1つ携えた。ズックの色が褪せて、少し黄色に変わりかけている。形が古風で、素麺櫃に手をつけたようだった。それを自分でさげて行ってもいいけれど、赤帽と云う者がいるのだから、赤帽に持たせた。>
こんな短い文章の中に、1等車の客、それにそぐわない粗末な服装、帷子を素肌に着る?素麺櫃ってなに?といろいろ興味をかきたてられることが詰まっています。
本を読むのが段段面倒くさくなったから、なるべく読まないようにする。貧乏の挙句、家族の食うものがなくなったので蔵書を売り払って字引まで売ってしまった。仕方がないので教わる側の学生に調べさせる。いっそのこと教師を止めてしまえばいいと思うけれど、貧乏でそれもできない。外国語を話すのが億劫なばかりでなく、人の話しているのを聞くのもうるさい。何の因果で、こんな面倒臭いもので、飯を食うようなめぐり合わせになったのだろうと思う。学生を連れてドイツ大使館に行ったときもうっかり独逸語の教師だと云うことが露見するとことが面倒だと思ったので、旨を含めておいて案内を乞うた。鞄も持ち歩くのに邪魔、袱紗包の方が手軽と思いついて何でも包み始め何にも整理しない。あるときその中から2円50銭出てきたことがあったが今ではもうそんなことはありそうもないので開けてみる気もしない。なんてことが書いてあって「転変地妖で消えて失せるのを待つか、若し包みのほうで頑張るなら、私のほうで、もろもろの包みを残して昇天するばかりである」と結んでいます。
なんという大学教授か、あーあ。でもおかしい。自分の家族や先生でなければ。
揺揺(ようよう)、嚏(くしゃみ)手套(手袋)などという漢字、「三越呉服店の配達馬車」なんていう記述もへぇー、と目が引き付けられました。なお内田ひゃっけん、の「けん」はこのブログではエラーになってしまって使えませんでした。門構えに月です。なんでかなあ。
===== 本日の1冊 =====
発行者 早田 和
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