天下一いふはかりなき名の月を目にかくる社(こそ)ことはりよなふ
                                      太女(『銀葉夷歌集』)


 『銀葉夷歌集』巻第三秋歌の続き。掲出歌の題は「八月十五夜」。『銀葉夷歌集』の入集歌人は二〇九人、うち女性は六人。次に入集歌の多い順だが伯水(九十五首)、方碩(七一首)、愛宗(五五首)、友和(三五首)、太女(三〇首)と続く。作者は有力歌人なのだ。二句は「云ふばかりなき」に「秤」を潜ませ、対応する四句「掛くる」に「量る」意を込めている。

  真白にて丸う見事なもち月を申さは是もてん夜もの也
  月々の月の鼠の算用はひき残(り)てや有明のそら
  みあくれは八坂の塔の九輪迄たた一りんの月にかかやく
  淀川の月の光ものりあひの船賃にをく露の玉かも

 一首目の作者は方碩、「八月十五夜」の一連である。二句の「丸う」は「丸く」のウ音便。三句「もち」は「望」と「餅」、結句「てん」は「天」と「店」と同音異義語である。二首目の作者は信安、題はなし。二句「月の鼠」は月日が過ぎていくこと、三句に跨って「鼠の算用」は鼠算だが、ここは深入りせず縁語とのみ解したい。四句「ひき(引き)」に「匹」で、まだ残っている有明月なのだ。三首目の作者は貞林、詞書は「八坂月」。二句「八坂の塔」は京都市東山区にある法観寺の五重塔、四句「一りん」は満月。ほかに咲いた花一つ、一つの輪の意味もあり、多義性による効果を狙っている。数字の出方も絶妙だ。四首目の作者は伯水、「題しらす」。三句は乗合船の略そして月の光も「乗り合ひ」の両義となる。では船賃はどこに置いたのか。三十石船の出港した渡し場にも月、地上はすっかりと秋であった。

  猫足の膳部につかふはつものはちちちと計(はかり)鼠茸哉
  をし折(り)て給(は)りたれはゑほしかきその味(は)ひをかふりてそ知(る)
  籠の内に思ひを入(れ)てをくらるるかたしけなしの心也けり
  まつかいに紅葉は色に出(て)ぬるを詠(ながめ)る人は面白しとや

 一首目の作者は重栄、題はなし。初句「猫足」は膳などの脚の下部が猫の足の形に似ているものをいう。結句「鼠茸」はホウキタケの別名。いずれも形状の見立て、そして作品は言葉遊びである。二首目の作者は政栄、題詞は「柿の枝折(しをり)を得て返事に」。柿は烏帽子に似た烏帽子柿。したがって初句「をし」は枝の場合は接頭語、烏帽子の場合は「押す」の連用形と解す。結句も柿(烏帽子)を「齧る(被る)」となる。三首目の作者は伯水、題は「梨を得て返事に」。技巧としては四句「かたじけなし」に「梨」を掛けた。あるいは二句「思ひ」は「重い」であるか。いずれにしても結句「心」を重視した作である。四首目の作者は太女、題は「紅葉」。初句「まつかい」は「まっか」に同じ。平兼盛の「しのぶれど」(『拾遺和歌集』)なら「物や思ふ」と尋ねるのだが、こちらは赤と白の対比に還元してしまった。