君か代の久しかれいと祝ふてふ書(き)初(め)に先(つ)めてたく歌詩句
                                        方碩(『銀葉夷歌集』)


 『銀葉夷歌集』巻第五賀付神祇歌は六一首。掲出歌の題は「春祝」。二句は「久しかれと」に「い」を挿入することで隠し詞「嘉例」(めでたい先例)を加えた。結句「歌詩句」は和(狂)歌と漢詩と発句、読みは「かしく」で「かしこ」の音変化、「可祝」とも書くらしい。

  卯の年の卯の月卯の日卯の時にうけに入(る)こそうれしかりけれ
  よろこびのをりへに酒を呑(む)人の顔に紅葉の賀をもたしけり
  近江なるつくま祭にみつちやつらふのやき鍋をかつき社(こそ)せめ

 一首目の作者は愛宗、題は「春祝」。句頭が全て「う」。四句の「うけ(有卦)」は陰陽道で干支による運勢が吉運の年回り、「有卦に入る」で有卦の年回りに入ること、七年続くのだという。ちなみに滋賀県大津市の三尾神社の神使は兎である。手水も兎である。その三尾明神は卯年卯月卯日卯の刻卯の方向に出現したのだそうだ。二首目の作者は知秋、題は「紅葉の賀に」。紅葉の季節に催す祝宴である。二句「織部」は「織部杯」、これに律令制の時代の「織部司」を重ねたかも知れない。結句「賀を」に「顔」を掛ける。酔って赤くなっているのだ。三首目の作者は春澄、題はない。三句は「みっちゃ面」で痘痕のある顔。四句は、あるとも思えないが「斑の焼き鍋」。滋賀県米原市の筑摩祭は日本の三大奇祭、千年の歴史を持つ。

  とむるかひ泪の袖もたつひさのさらはとたにもえいはさりけり
  またやかておめにかからん天秤のさらはさらはといひ別(れ)つつ
  高荷をはやれそれやのいて通せよとをふやはいしい道中の馬子
  高砂や此(の)浦舩の乗合につれのおほきそ脇のさまたけ

 次に『銀葉夷歌集』巻第六離別付羇旅に移る。全五〇首。一首目は巻頭作で作者は休甫、題はない。歌意は「止める甲斐もなく、泪の袖を絶つ(裁つ)思いであなたを見送った。だから別れている時間が長くなりそうな左様ならとは一言も口にしなかったことだ」。三句は句割れ、結句の副詞「え(得)」は下に否定の表現を伴って不可能の意を表す。二首目の作者は正盛、題は「百首歌中に」。四句に天秤の「皿」が二つある。そう見ると二句「かからん」も縁語、素朴かつ軽快である。三首目の作者は顕興、「題しらす」。初句「高荷」は馬の背に高く積み上げた荷物、それを今から積むのである。二句「やれそれや」口やかましく「退いて通せよと」どかして「負ふや」負うたら、となる。「はいしい」は唱歌「こうま」の歌い出しにも登場する。手綱に代わる人語なのだろうが響きもやさしく変わる。四首目の作者は貞林、題はない。初句から二句「此(の)浦舩」までは謡曲「高砂」の一部、三句「乗合」は「乗合船」の略、四句「つれ」は乗船客の「連れ」に「ツレ」を掛ける。結句は混雑の意そしてシテの相手役の「ワキ」にとって補助的な役のワキツレが演能の妨げになることをいう。