物さしのさしてそれとはいはすとも寸の情(け)をかけて給(は)れ
方碩(『銀葉夷歌集』)
『銀葉夷歌集』巻第七恋歌の続き。掲出歌の題は「寄物指恋」。二句「さして」は物指しで寸法を測る意に副詞の「さして」(あとに打ち消しの語を伴って「たいして」)を重ねて四句に繋ぐ。その「寸」は縁語で長さの単位、これに僅かの量の意を重ねて恋の歌とした。
千話をしてくらせやあののものさしの一寸先はやみの世の中
櫛のはをひけとひかねと昔より心は君によりしもとゆひ
しらすなよ局ならひのしも口は物いひあしき宮と社(こそ)きけ
一首目の作者は伯水、題は「寄物指恋」。初句「千話」は「痴話」に同じ。痴話喧嘩、睦言、情事などの意。二句は感動詞「あのの」。これに四句「もの」を共有して連語「なんのかのと言うこと」。四句「一寸」は「ものさし」の縁語、そこから成句を呼び出して「世の中」で着地した。二首目の作者は太女、題は「寄鬠恋」。初句から二句は成句「櫛の歯を挽く」(物事が絶え間なく続く意)の応用である。結句「もとゆひ」は「鬠(元結)」で元から結ばれていたのだ、となる。三首目の作者は源三位頼政、題は「隠傍女恋」。「知らすなよ」で初句切れである。二句「局ならひ」は部屋隣り、三句「しも口(下口)」は裏口。三句「物いひ」は噂。部屋隣りには注意することだ。噂が噂を呼ぶ宮だと聞いているよ、といったところか。
今宵しもあふむの鳥の真似なれや互(ひ)に嬉し嬉しとそいふ
たかはしとおもふか中に秋風も今日ついたちの文月そうき
是やこの娌(よめ)とり肴いたさるる魚も契(り)もおなし海老
中々に君をしらちかまししや物もんしやいもなく思ひそめぬる
一首目の作者は壺仙、題はない。二句「鸚鵡」が平仮名表記になっているのは「逢ふ」を掛けたかったか。一発芸のような作品である。二首目の作者は重勝、題は「変恋」。初句「たかはし」は「高橋」で遊女の通り名、大坂屋太郎兵衛抱えの太夫である。初代と二代が特に有名だそうだが、そんな「高橋」と思ったあなたとの仲にも秋風が吹くようになったという歌だろう。「秋」は当然にして「飽き」である。三首目の作者は方碩、題は「嫁取座に挨拶」。嫁を迎える側への挨拶である。二句は祝儀の席に出される肴、肴までを一纏めと読む。三句は「出ださるる」「致さるる」両様に読めるが前者をを採った。四句の「魚」は「肴」の類義語で重複を回避、結句は偕老同穴の「偕老(かいらう)」に海老の別名「かいらう」を掛ける。四首目の作者は伯水、題は「思」。初句「なかなかに」は「かえって」、二句「しらち」は「白地」で白いままの布、これに「知らじ」を掛ける。三句「まし」は「麻糸」に形容動詞の「まし」、四句「もんしや」は「紋紗」で文様を織り出した紗、これに掛けるのは「文者」か。「しや」を共有して「しゃいも無く」(わけもなく)としたが、他にも考えられそうだ。