お小袖はいくつめすともとにかくにかりにも妻を重ね給ふな
重勝妻(『銀葉夷歌集』)
『銀葉夷歌集』巻第七恋歌の続き。掲出歌の題は「妻の旅に有(り)しころ小袖をくるにそへて」。補って「妻の、(夫が)旅に有(り)しころ、小袖をくるにそへて」と読んだ。「妻」は着物の「端・妻」から「褄」の意、重ね着はいいけれども浮気は別ですよ、となる。オ段を中心とした調べが秀逸である。作者の入集はこれのみ、重勝は十二首が入集している。
千話文をむすふ契(り)はもろともに思ひまいらせ候へく候
山賤(やまがつ)の垣ほにかこふわれ竹のよませになとてあひみ初剣(そめけん)
別(れ)ても肌身にそはんと計(はかり)にそもしのお名を入(れ)ほくろ哉
君とわれぬる間もなくてしらしらとけさの別そ名残おしろい
一首目の作者は伯水、題は「互思恋」。初句「千話文」は恋文、艶書。二句は「契りを結ぶ」の応用。四句「まい(ゐ)らせ」は補助動詞で謙譲の意を表し、結句「候へく候」は「候」に同じ、手紙の末文の同じことをいう。二首目の作者は光俊朝臣、藤原光俊(一二〇三〜一二七六)である。題はない。初句「山賤」は作中で謙遜してみせた。二句「垣ほ」は「垣穂」で垣根、四句「よませ」は「夜交ぜ」で一晩おき、「なと(ど)て」は「どうして」の意。三句は垣穂の材料かつ「娘」をいっているようで、こうなると謙遜よりは卑下に近い。右は『新撰六帖題和歌』と『夫木和歌抄』に見える。三首目の作者は一十、題は「別思」。三句「そもし」は「其文字」で二人称の代名詞、あなた。結句「入れ黒子」は入れ墨、腕などに彫る。二句から三句の句またがりが印象に残る。四首目の作者は正恵、題は「別思」。二句「ぬる間」は「寝る」の文語形「寝(ぬ)」の連体形、三句「しらしら」は「と」を伴って夜が明けていくさま、結句は「名残惜し」の「惜し」に「白粉」を掛けていること云うまでもない。
誰も此(の)下女か化粧を笑ひけりうふけ交りの際墨をして
今からはせまいといひて又しては又してはまたりんきいさかひ
世をそむく柴の編戸のかけかねの思ひはつせは人そ待(た)るる
一首目の作者は行重、題は「化粧」。四句「際墨」は髪の生え際を墨で縁取ること、久清に〈油墨てけはふ額のかかり社(こそ)瓦燈口にし能(よく)にたりけれ〉がある。瓦燈口(かとうぐち)はアーチ状になっている。うぶ毛を剃ってこそ美しいのである。二首目の作者は方重、題は「悋気」。二句「せまい」はサ変の動詞「す」の未然形に助動詞「まい」で打ち消しの意を表す。この時代は悋気講があった。ア段ほか同音反復とリフレーンが妙味である。。三首目の作者は信実朝臣、画家で歌人の藤原信実(一一七六〜一二六五ころ)である。題はない。三句から四句の「かけかねの思ひ」は掛け金のような思い、もう少しいえば掛け金となっている思いで初句を受ける。その掛け金さえ外せば人に待たれているのだ、となる。