[ ゴキカブトシリーズ[Part2] ]  

<これまでのお話>ゴキカブトになったゴキブリのゴキ次郎は、メスのカブトムシ、カブリリーとの間に正真正銘のゴキカブトとなる子どもたちを授かった。しかし、ある日、愛妻カブリリーがカブジャイアンによってさらわれ、ゴキ次郎とカブジャイアンの決闘がはじまったのだった。あわや、ゴキ次郎…。

第8話 「本当の姿」

「プ〜ッ、プププ〜ッ、プップップッ」
(ん? なんの音?)
 カブリリーと子どもたちがそう思って、パッと目を開けた瞬間、カブジャイアンが木から落ちていく姿が見えた。
イチロー:「わあーい! お父さんが勝ったぞ!」
ニロー:「お父さんの勝ちだ!」
サンロー:「お父さんが勝ったんだ!」
シロー:「お父さんスゴイ!」
ゴロー:「お父さんやったね!」
ロクロー:「やっぱり、ぼくらのお父さんだ!」
シチロー:「お父さん強いぞ!」
ハチロー:「お父さん!」
 ゴキ次郎は縄でしばられたカブリリーを助け出すと、二匹はしっかりと抱き合った。
「あなた」
「リリー」
「ん? あなた、なんだかいつもと違うわ。」
 カブリリーが鼻をクンクンさせながら、いぶかしげな顔をした。
「あっ、ごめん。おいら匂うだろう。秘密兵器を準備するために、夕べちょっとヘンなものを食ったんだ。」
「まあ、そうだったの。じゃあ、もしかして、もしかすると、あの音はあなたのオナラだったのね。フフフ。」
 抱き合うゴキ次郎とカブリリーに覆い重なるように、子どもたちが集まってきた。ゴキ次郎は家族にとってヒーローそのものだった。みんなの笑顔に包まれ、ゴキ次郎はこの上ない幸せをかみしめていた。
 けれど、最高の幸せは長く続かなかった。
 八匹の子どもたちがつぎつぎに抱きつき、最後にハチローがゴキ次郎の角につかまったときだった。
「ポロッ」
 あっけなくゴキ次郎の角が取れてしまったのだ。
「キャーッ! あなた、大丈夫? 大丈夫?」
 取り乱すカブリリーのそばで、ゴキ次郎は無言だった。
(とうとう、この日が来てしまった。)そう思っていた。
 カブリリーが言葉を無くすと、しばらく誰もしゃべらないシーンとした時間が流れた。
 角のとれたゴキ次郎の姿は誰がどう見ても、ゴキブリそのものだった。
 イチローが言った。
「お父さん、ゴキブリみたい。」
 それは、みんながそう思っていることだった。
「何を言うの!」
 カブリリーがイチローを叱ろうとしたとき、ゴキ次郎が口を開いた。
「そうなんだ。お父さんは本当はただのゴキブリなんだ。いままで黙っていてゴメンな。リリー、おいらはきみに会えて、本当に幸せだったよ。ありがとう。子どもたちのことは、たのんだよ。」
 そう言うと、ゴキ次郎ははねを広げ、雑木林から抜け出した。
 人間の子どもに角をつけられ、雑木林の中で絶望に暮れていたときよりも、角がとれてしまった今の方が、よっぽど悲しかった。
 行く当てもなく空を飛びながら、ゴキ次郎の涙はセミのおしっこのように地面に降り注いだ。

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