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「知ることは共に生まれること」(ポール・クローデル)
 connaitre = con + naitre

 「9歳の壁」&「12歳の臨界期」について

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「考える力」を子どもたちにどう培うか…それが今の日本の教育の大きな課題である。ところが、子どもたちに「考える力」を付けさせると言いながら、ではどうすれば「考える力はつくのか」…と改めて問われた時、まともに応えられる人は多くない。「学力とは何か」…ということがとても曖昧なのだ。

そういう問題も含めて「学力」の問題に真正面から取り組んだ人がいる。以前、その人の著作に触れ、そこで言わんとしていることに強く共鳴したことがあった。9歳までに将来抽象思考を駆使するための「絶対学力」を身に付けなければならない、という趣旨のものであった。ところが、今回の書物のタイトルには『12歳までに「絶対学力」を育てる学習法』(糸山泰造著、草思社、1200円+税)とある。一体、何が変わり何が変わっていないのか。その辺も併せて確かめてみたい。

この本の腰帯には“あなたのお子さんは「考えない学習習慣」をつけていませんか?”とあり、“警告!高速計算・徹底反復は「考えない習慣」をつけてしまいます!”とか“すべての教科に役立つ万能の思考力を伸ばす”ともある。この本は中学受験を目標とする子どもを持つ両親、特に母親をターゲットにして書かれているらしい。だから“むり・むだのない中学受験対策付き”などとも言うのだろう。宣伝広告的文言がかなり強い。では、この本はそれだけの本なのかというと、決してそうではない。前の『絶対学力』の時もそうだったが、この著者の言説の好き嫌いはあるとしても、日本の教育の根本を考える時に等閑にしてはいけない大事なことがここにはしっかりと書かれている

この著者の基本的な考えはこうだ。
子どもたちの多くは「考える力がない」のではなく「考えられないように教育されている」。これは「人為的な学習障害」である。
その最大の原因は、12歳以前、とくに9歳以前に徹底反復とスピードを重視した「読み・書き・計算」の高速学習をさせることと、――この本の命題でもあるが――思考力の基礎となる「視考力」の使い方をまったく教えていないことにある。反復高速学習の指導で伸びるのは「高度なサルまね」という「にせものの学力」に過ぎない。こう著者は言い切る。
▼では、どうしたらいいか。
「少量の質の良い家庭学習」と「視覚イメージの活用」――この二つが豊かな学力養成の絶対条件である。

思考力の養成には「臨界期」というものがあり、それが12歳であるという、アメリカでの研究データに基づく考えである。つまり、12歳までに人間らしい判断力を含む思考力を育てなければ考える人間にはなれないというのだ。だから、その年齢になるまでになるべく単純思考の反復練習はさけ、複雑な思考回路を促すような環境を整える必要がある。ここで著者が「視考力」という造語(?)を敢えて持ち出すが、それは思考力はもちろん、運動や芸術を含めたあらゆる分野で応用力を発揮する「万能の絶対基礎学力」のことである。(私はこの「視考力」という言葉を、いわゆるヴィジュアル・シンキングとかイメージ・シンキングとか図解思考とかと置き換えてもそれほど問題はなかろうと考える。)

たとえば、このごろ幼稚でかつ残忍な犯罪が多いが、それは「人から人間へ」育ててもらえなかった人間の起こす犯罪である。だから、もし学校で「人から人間に育てあげる」教育を期待できない場合には、家庭で育てるしかない。これは、考えない子どもたちを大量に作り出す現代日本の教育への警鐘でもあろうか。

先の『絶対学力』のときもそうだったが、著者は単なる思い込みで語っているわけではない。この「12歳は思考の臨界期」という考え方も、9歳から12歳頃までに形成される大脳や小脳の働きから導き出された考え方である。12歳頃までに小脳での視覚イメージ操作、つまりサブルーチンとしての小脳思考が出来るようになるが、そうすると大脳は本来の司令塔としての複雑な思考を駆使できるようになる。いわゆるクリティカルシンキングが可能な大人の脳の完成ということであろうか。ここまで子どもをどう育て学習させるかが大事だと著者は言う。

(※どこまでこれに関連するか分からないが、いわゆるボーダーの子ども、いやボーダーラインにも至らないかもしれない知的障害を抱えた子どもたちとも接して感じたことがある。おそらくは先天的に脳に障害のあるような子どもたちの場合には、言葉や数を抽象的に扱う作業がとても難しい。たとえば、言葉の操作であれば、書き写すことや読むことはある程度可能でも、自分で“考え”て空欄を埋めたり類推したりするるような作業がとても苦手である。また、具体的なものは数えることができるけれども、それを足したり引いたり掛けたり割ったりする抽象的な操作を行うことがとても困難である。つまりは自然物としては確認できたとしても、それをある抽象的な概念で一般化することができないということがある。具象的な思考から抽象的な思考への移行は、喩えれば、青虫から蝶への変身のような大きな精神的な飛躍であるということである)

大事なことは、言葉(文章題)から視覚イメージを働かせて絵図を描き、そこから思考力を働かせるということ、つまり視覚イメージの再現・操作によって思考することだと著者は言う。「問題の意味がわかる」ということは「文章を絵図であらわせる」ということであり、「問題を解く」とは「絵図の中で発見する」ということ、そして、「考える」とは「絵図を操作する」というであると。

だから、「絶対学力」を育てるためには、十分な熟成期間を設け、多様な興味を持たせ、経験を積ませる必要がある。「先行学習」や「先取り学習」などをさせてはならない。もちろん、早期の九九の学習も禁止だし、結果だけを求める答えは重要ではない。具体的な視覚イメージとして捉えることが大事で、指折り算という体感計算や視覚イメージによる計算、三角視算表による三角計算、絵図を使っての立式などがこれに該当する。こうして著者の推奨する「良質の算数文章問題」が生まれた。

そこで、次回はその「良質の算数文章問題」を実際に取り上げ、子どもたちの反応も報告してみたい。

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