彼を見て私は、
「ものすごくハンサムだわ!背も高いし・・・なんでこんなところにいるんだろう?」
と不思議に思った。そしてちょっとだけ神様に感謝した。
決して彼をじろじろと見ていたわけではないが、ふとお互いの目が合ってしまった。私はオタクから逃げたい一心で、助けを求めるような視線をその男性に送った。
すると彼は遠くから、手に持ったシャンパンをこぼしそうになりながら、私めがけて一直線に歩いてきたのである。そして
「ちょっと失礼。僕もこのお嬢さんとお話がしたいので、譲っていただけますか?」
と、オタクに向かって丁寧に、しかし、有無を言わせぬ口調で言ったのである。オタクはその男性の美形すぎる顔とその口調に一瞬たじろぎ、言われたとおりに私から離れていった。私は
「助かったー」
と、その男性に今度は感謝のまなざしを送った。彼もそれを理解したようであった。
彼は
「こういうところ初めてですか?僕も初めてなんで緊張してるんです。あ、喉渇いてません?」
と話しかけてきて、自分が持っていた2つのシャンパングラスのひとつを私の目の前に差し出した。私はドキドキしているのを気取られまいとして、
「ありがとう」
と軽くお礼を言い、すっとグラスを受け取った。しかし心臓はバクバクしていて、身体も震えるのではないかと思った。それほど彼はハンサムなのである。
その彼が私の今の恋人、直哉であった。
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みなさま、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
いつも読んでくださってありがとうございます^^
この直哉がこれから「私」の目にどううつっていくのか、お楽しみに!!

電話のベルがなった。私は半ば無意識に受話器を取った。相手はわかっている。恋人の直哉である。
「おはよう!今日の具合はどう?」
私の身体が弱いことを知っている彼は、開口一番そう聞いてきた。
「うん、まずまずってとこね」
そう答えると、私は受話器片手にクローゼットを開け、並んでいる洋服をざっと見渡した。今日は直哉とのデートの日だ。どんな服を着て、どの香水をつけよう?直哉は結構オシャレだから、つりあわないとまずいわ、などと思いながら、クローゼットを覗き込んでいた。
その間も直哉は心配そうに
「今日外に出られる?大丈夫?」
と訊いて来ていたので、少し元気なフリをして、
「うん、もちろんよ」
と答えた。会う時間と場所を決め、電話を切った。
約束の時間までにはまだ余裕がある。ゆっくり洋服を選びながら、私はぼんやりと、直哉と出会ったときのことを考えていた。
直哉とはいわゆるねるとんパーティーで知り合った。私はそのたぐいのパーティーに参加するのは初めてであった。なぜならそんなパーティーに出席しなくても、男性には不自由しなかったからである。けれど結婚を考えたときに、周りにそれに値する男性はいなかったし、結婚するなら今までの遊び好きなオスたちより、真面目で浮気をしない人がいいと思っていたのだ。それで、そのパーティーに出席してみたのである。
慣れないパーティー会場で、私は一瞬雰囲気に飲まれそうになったが、ここでひるんではいけないと思い、会場を見回し、男性の品定めを始めた。
ある人は小太りで頭が禿げあがっていたし、またある人は明らかに秋葉系のオタクであった・・・。私は頭の中でひとりひとりの顔に丸バツをつけていった。丸をつけられるような男性はここにはほとんどいないようで、バッテンがどんどん増えていった。
「ろくなのがいないわね・・・」
私は少々落胆していた。
しばらくすると、秋葉系のオタクが私の方に歩いてきた。私は内心
「あちゃー」
と思ったが、その瞬間オタクに声をかけられてしまった。
「勘弁してよ・・・」
私はオタクから後ずさりしていくような形で、少しずつ後ろの壁ぎわに下がって行った。もちろんオタクがその意味に気付くことはなかったのだが、あたりさわりのない話をしてさっさと逃げようと思っていたのに、このオタクが自分の趣味を語り出してしまった。もちろん私にはちんぷんかんぷんだったし、理解しようとするほどの興味もなかった。
「こんなパーティーに参加したのが間違いだったのかなあ?」
私はパーティー開始後約15分で、すでに来たことを後悔し始めていたのである。
ところが次の瞬間、ものすごい男前が視界に入ってきた。
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みなさま、ものすごくお久しぶりでございます。
今回も読んでいただきまして、ありがとうございます。
さて、オタクとものすごい男前が目の前にいる「私」はどうなるのでしょうか。
次回もお楽しみに!!
「潮時、かも」
部屋に戻った沙耶子は、またひとりつぶやいた。
しかし、作田のいない、以前の自分に戻ってしまうことだけは、どうしても嫌だった。あの、黒いものにのみこまれそうになるような、なんとも不快な長い時を、ひとりで過ごすことはしたくなかった。
「どうすればいい?」
沙耶子は作田に別れを告げられるのを恐れていた。これはもちろん彼女ひとりで想像しているだけで、むしろ、作田はまだ彼女のことを愛していたはずだったのだが。
「どうすればいい?」
自分から別れを告げよう、そう思い始めていた。しかし、それは彼女には難しいことだった。2人で新しい愛の形を模索していたけれど、それは幻想にすぎなかったのだ、と彼女は思った。作田は自分には若すぎる。そして自分には彼をずっと虜にしておく自信など全くなかったのだ。ましてや子供までおろしているのに・・・。
「終わらせるしかないのね・・・」
沙耶子は作田に短い手紙を書き、ポストに入れた。自分がどんなに作田を愛していたかを綴った、短い手紙を。
そこにはまだ愛がたくさん残っていた。そして彼女の心の中にも、まだ彼に対する愛は確かに残っていた。
彼女はバッグの中から1枚の写真を取り出し、タバコに火をつけるようにライターで燃やしてしまった。それは作田と自分とが写っていた写真だった。
「これでいい、これで・・・」
彼女の目の前には大好きな白ワインと大量の睡眠薬が置かれていた。
「さようなら」
彼女はそう言うと、2人分置いてあるワイングラスにワインを注ぎ、乾杯の真似をした。それから睡眠薬を一粒一粒、想い出を消すかのように飲んでいった。
沙耶子の意識は段々、朦朧としてきた。
「これでもうあの膨大な時間に悩まされることはないわ。彼のことで悩むこともない・・・」
彼女は眠るように目を閉じた。
その顔は、安堵の表情をしていた。
「これで、終わり・・・」
一言つぶやいて、沙耶子の意識はそこで途絶えてしまった。
-完-
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みなさま、いつも読んでいただきまして、ありがとうございます。
「時」はこれで終わりですが、いかがでしたか?
お楽しみいただけましたでしょうか。そうであれば大変嬉しいです。
この作品は、わりと大きな出版社2社のコンテストで「佳作」等をいただいたもので、
私にとっても思い入れの深いものです。
お読みくださり、心から感謝致します。
今後は、悪化してきた病気を治し、また復帰した時にはもう少し短めの短編を書きたいなあと思っております。よろしければ楽しみになさっててくださいね!
どうもありがとうございました^^
ご感想などございましたら、メルマガの一番下にある「このブログのトップはこちら」のURLをクリックしていただいて、出てきた画面をスクロールさせると、左下に「コメント」がありますので、それもクリックしていただいて、お書きいただけると非常に嬉しいです!
この作品を、私の作田であるMに贈ります。但し、蜜月の時の!(笑)
沙耶子の妊娠が発覚した。夫とはセックスレス。相手は作田の他に考えられなかった。
それを作田に告げた時、彼は明らかに困ったような顔をしたのだ。それもそうだろう。まだハタチそこそこの若者が、結婚するだの、父親になるだのとは考えにくい。作田は言いにくそうに
「すまない。子供はおろしてくれ」
と言った。
沙耶子はそう言われることがわかっていたかのように、頷いた。
本当は産みたい。愛する作田の子供が欲しい。自分ひとりででも育てていけないだろうか。そう思ってはみたものの、やはり作田の将来を考えると、子供はあきらめるしかなさそうだった。なにより彼の困った顔が全てを物語っているではないか。作田は、
「沙耶子のことは愛している、でも・・・」
と言ったが、沙耶子の耳にはもうそんな言葉は入らなかった。彼女にとって、愛する作田の子供をあきらめることは、死を意味するぐらい大きなことだった。子供を産むことを拒否され、彼女は立っていることができなくなり、座り込んでしまった。
「産みたいわ・・・」
沙耶子はつぶやいた。
「産みたいのよ」
今度は少し声が大きかった。
「私はあなたの子供が欲しいのよ。でも、そんなこと無理よね・・・あなたはまだ若いんだし・・・なのに私はどんどん高齢出産に近づいていくのよ・・・そのうち子供なんて産めなくなるわ」
彼女はあきらめきったようにそう言った。
「手術には一緒に来てくれるわよね・・・」
そういうと、彼女にはもう何も話す気力がなくなってしまった。
新しい愛の形など作れるものではない、と彼女は気づいた。このまま作田との交際を続けていけるのだろうか。子供をおろして、また平気な顔をして作田と会えるというのだろうか。
自分の部屋に戻った沙耶子は、おなかをなでながら、
「ごめんね、赤ちゃん。あなたを産んであげることはできないの」
また涙が出てきて止まらなかった。
もしも夫との間にセックスがあれば、夫の子供として産むことができたのに・・・。
「赤ちゃん、ごめんね。ごめんね・・・」
沙耶子はもう一度号泣した。彼女にはそれしかできなかった。その日は泣きながら眠ってしまった。
次の日、作田に伴われて、遠くにある産婦人科へ行った。手術は終わった。
「さよなら、私の赤ちゃん・・・」
予想に反してスッキリした顔で産婦人科を後にすることができた。
これから私はどうするんだろう・・・作田のことはまだ愛している。でも子供をおろしてしまった。どうすればいいのだろう・・・。
作田は優しく
「愛してるよ、沙耶子。傷つけてすまなかった」
と言ってくれた。
けれど沙耶子には、それが本心から出ている言葉なのかどうか、わからなかった。
それからしばらくの間、2人は一緒にいた。しかし、どちらとも口を開こうとはしなかった。作田は沙耶子の身体を本気で心配しているようだった。だからこそ何も言えなかったに違いない。ただ2人で抱き合っていただけだった。重苦しい空気がその場を支配していた。沙耶子は辛くなり、家に帰ると言いだした。作田はそれを止めようとはしなかった。彼も、その重苦しい空気に耐えられなかったのだった。
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申し訳ございません〜!「時」(8)に画像を貼り付けるのを忘れていました^^;
どうかお許しを!!
次回で本当の本当に最終回となります。
どうぞお楽しみに〜〜〜♪
だが、その時、沙耶子は焼きもちを焼いてしまった自分を恥ずかしいと思った。彼よりずいぶん年上の自分が、こんな若い男と小娘相手に焼きもちを焼くなんて・・・。彼女はそういった考えを持つことを極端に嫌った。
夫に女性の影があることでさえ、焼きもちなど焼かないのに、何故作田に関してはこんな気持ちを抱いてしまうのだろう。沙耶子はそんな自分をとても嫌だと思った。そして、作田がもしこの考えを知ったら、自分は嫌われるのではないかとまで思っていた。
むろん、作田は沙耶子の前で他に女性がいるようなそぶりは見せなかったし、まだ愛してると言ってくれる。けれど沙耶子の寂しさ、悲しさ、そして嫉妬は、彼の態度に関係なく大きくなってしまった。
沙耶子は、作田と2人でいる時に、その焼きもちの感情をどうしても抑えることができず、尋ねた。
「ねえ、やっぱり女性は若い方がいいわよね」
作田はちょっと困惑したような顔をして、
「俺には沙耶子しかいない」
と答えた。
だが、彼女の気持ちはそれでは収まらなかった。
「本当は自分と同い年ぐらいの若い女性と付き合いたいと思ってるんでしょう?」
「私みたいなおばさん、相手にしたくないでしょう?」
「夫もいるし、本当はもう別れたいと思っているんだわ」
沙耶子は矢継ぎ早にそう叫んでいた。完全に取り乱していた。
作田は必死で彼女をなだめようとした。しかし、それは簡単なことではなかった。
「俺には沙耶子しかいない。本当だ」
いくらそう言っても、彼女は聞かなかった。彼の腕をふりほどいて、彼女は泣きじゃくっていた。夫とさえ、こんな状態になったことはなかった。そう、夫に女性の影が見えた時でさえ、彼女は冷静に、何事もなかったかのように夫に接してきた。夫は他の女性がいることを沙耶子に知られているのをわかっていたようだが、彼女が問い詰めないために、離婚する気はさらさらなかったようだった。罪悪感さえ持っていないようでもあった。
かつて夫を愛していた時、沙耶子は本当はショックで立ち直れないのではないかというぐらい落ち込んだ。けれど、自分にも非はあるのだろうから、とか、浮気ぐらいできる男は解消がある、とかいう理由で、とにかく冷静を装って夫に接したのだった。
それが今、こんなにも取り乱している。沙耶子は自分でもどうしてこの状態を抑えることができないのか、わからなかった。作田も若い。とうとう怒りだしてしまった。
2人はしばらく論争を続け、完全に取り乱している沙耶子が部屋を出ていく形になった。
「どうして?こんなに愛しているのに・・・いや、愛しているからこそ、嫉妬の感情も出るのだわ・・・」
外は雨が降っていた。その雨にうたれながら、彼女は考えていた。
すると、うしろから作田が傘を持って追ってきた。
「雨に濡れると風邪をひく。とりあえずこのジャケットをはおって、傘に入ってくれ」
さっきとは違う、落ち着いた、いつもの作田がそこにはいた。沙耶子は正気を取り戻した。そして泣きながら、彼に謝った。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・あなたを愛しているから、どうしても嫉妬してしまうの。あなたを信じることができないの。愛してるわ・・・だからこそ信じられないの。私の気持ち、わかって。お願い」
作田は何も言わなかった。ただただ、彼女を抱きしめただけだった。
2人はこの時まだ心が通じ合っていた。
ところが、2人にとって決定的なものとなる出来事が起こった。


