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■勝汰章の著作刊行本

「笑顔になるための246のことば」

悲しみを乗り越える時に・・・

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「雅彦さんは、金融関係の会社で働いているということですが、名前も何も分からないのですか? どんなことでもいいですから記憶にあることを教えて欲しいのですが?」
「そう言われても・・・待てよ・・・確か、名前は分からないが、野上の紹介ということは話していたような気がする・・・それと、野上の関連会社とか・・・何とか・・・それしか覚えていないな・・・」
「野上が関係しているということですね?」
「・・・だと思うがな?・・・」
すると、新開刑事の携帯が鳴った。
何やら、えっ?・・・とか・・・そうか?・・・とか・・・顔は真剣な表情になった。
新開刑事は、僕を呼び寄せた。

「雪ちゃん・・・面白いことになったぞ・・・田中雅彦の解約したかもしれない携帯の番号で調べてもらったのだが、契約者は野上幸則になっているという。一体・・・どういうことだ?・・」
「えっ・・・野上が契約者? 何で・・・普通なら、そんなことはないと思うけど、もしかしたなら、野上の会社で働いていたということで?・・・」
「そうかもしれないな? どっちにしても雅彦君は野上と関係したいということだな。しかし、携帯電話を解約したということは、野上と別れたのかもしれない? しかし、おかしいなぁ・・・?」
「新開さん・・・おかしいですよ。仮に野上の会社で働いていて辞めたとすれば、今は別の会社で働いているということかもしれません。そうしたなら、叔父さんに連絡があってもいいと思います。金銭的に携帯電話を買うことができなくても電話ぐらいはできるはずですよ。十円あればいいだけのことですから?それとも、連絡することができない何らかの理由・・・があるのかもしれませんが?・・・」
「何だって? 雅彦は、どこにいるんだ?」と、叔父さんは、また不安な顔になった。

「田中さん・・・雅彦さんの写真はありませんか?」と、僕が尋ねると、数枚の写真ならあるという。
「新開さん、何やら変な展開ですよ。何かがおかしい・・・全ては、野上に関係している。中川昭義といい、雅彦君といい・・・皆、京都出身で、元は暴走族・・・これは何かありますよ?・・・」
「雪ちゃん・・・間違いないな。なんだか嫌な予感がする。雲の中の隙間が見えてきたかもしれん。」
「えぇ、雲の中の隙間・・・とにかく、雅彦君の写真を日光南署の今野刑事へ送ってみましょう。もしかしたなら、チェリーファイナンスで働いていたかもしれません。必ず、雅彦君を知っている人がいると思います。野上の会社の人なら・・・」

叔父さんは、家に帰って写真を持ってくるということになった。
その間に、京都中央署の桑原刑事が、捜索願の書類を持ってきた。

「新開さん、雪田さん・・・今回の事件に関係している奴らは全員が元暴走族です。殺された中川昭義や行方不明の田中雅彦・・・野上・・・それと、南・・・今、所在が確認されているのは二人だけです。もしかしたなら、田中雅彦も殺されているのでしょうか?」
「桑原さん・・・可能性はないとは言えないな。もしかしたなら、手や足首は、雅彦なのかもしれない?」
と、新開刑事。

「僕もそうかもしれないと思っていました。何らかの仲間割れ・・・それにしても、殺害の方法が違いすぎます。それぞれは別の事件なのかもしれない? それと、動機が全く見えない。同じ事件だとしたならば、この四人の過去に何かがあるのかもしれません。しかし、十五年も経過しているのに? いまさら・・・」と、僕は言った。
「そうだな・・・何かがあったとしても、そんなに過去のことではないと思うが? しかし、全員をもう一度洗う必要がある。桑原さん・・・京都百足連合が発足した当時の資料が欲しい。それと、解散した理由も調べて欲しい・・・頼むよ」
「新開さん・・・分かりました。早速、調査させます・・・」

こんなやり取りをしているうちに、叔父さんが雅彦の写真を持って帰ってきた。
十代と思われる写真が数枚あり、その中の一枚を日光南署の今野刑事へ送った。
京都中央署の桑原刑事の調査によると、京都百足連合の実態がはっきりとしてきた。
今から十六年前に野上幸則と南紀夫を中心として発足したということだ。
当初のメンバーは五人。その中に中川昭義と田中雅彦の名前があった。
車よりもバイクを中心とした暴走行為をしていた。

他のメンバーの名前も記載されていたが、そのメンバーで所在が分かっている奴らを徹底的に調べるという。
さらに、解散理由は、暴走族同士の傷害事件を起こし、警察の命令で解散したという。

傷害といっても、相手の暴走族の1名に全治1ヶ月の怪我を負わせたということであった。
それが解散の原因だということであり、野上も警察の解散命令を受け入れたということだ。
それ以外の詳細な内容はなく、その資料からは何も得るものはなかった。

その日の夜、僕は昔からの友人の自宅を訪ねた。

武田博之という男で、僕が中古車屋を始めた時に、開店時に最初に車を買ってくれた人であり、その後、実家のある京都に戻り家業の漬物屋を継いでいる。東京にいた時は、大手の漬物メーカーで勉強していた。

「雪田さん・・・久しぶりですね。元気ですか? 仕事かなにかで・・・」
「武田さんも元気そうで何よりです。仕事ではなくて、知り合いのお伴というところですか・・・初冬の京都はいいものですね。東京にはない風情がありますよ」
「えぇ、確かに東京にはない町並みだし、歴史の重さというのでしょうか? 東京にいた時よりも、少しだけのんびりと生活しています。もう、お子様も大きくなられたでしょうね?」
「子供? いゃー、結婚もしていないですから子供もいませんよ。なかなか縁がなくてね・・・」
「・・・すいません・・・てっきり、あの当時の女性と結婚されていたと・・・」
「あぁ・・・あの女・・・しっかりとふられてしまいましたよ・・・ハハハ・・・」
僕にも、中古車屋を始めた時に付き合っていた女性がいた。
その女性は、僕の店を手伝ってくれていたのだ。

しかし、僕の煮え切らない性格で逃げられてしまったという最悪の過去があった。

「・・・すいません・・・それで、お伴ということで観光ですか? 観光なら僕に任せて下さいよ。いつまで滞在するのですか? 明日なら、朝から時間がありますが?・・・」
「いえ、観光というほどのものではないのです。刑事のお伴・・・なんですよ。ちょっと事件が・・・」
「刑事・・・事件・・・何か物騒なことですか? まさか、殺人事件ということはないですよね?」
「その、まさか・・・なんですよ。鴨川のほとりの殺人事件です・・・」
「あぁ、記憶にありますよ。殺されたのは東京の人らしいですね。その件ですか? しかし、刑事さんに同行するというのは、雪田さんも事件に関係しているのですか?」
「関係というほどのことはありませんが、友人の弁護士が多少関係したのです。勿論、犯人ということはありませんが、当初、間違われてね・・・それで、僕にも容疑がかかったのですよ。それと、横浜と日光で発見された死体と関係があるのではないかと・・・車に関係しているので、僕も興味を持って京都まで来たということです。まぁ、いつもの僕の悪い癖なんですが・・・」
「雪田さんらしいですよ。前にも、連続殺人事件でマニラへ行っていたと聞いていますよ。まるで、刑事みたいですね・・・失礼な言い方ですが、お金になるのでしょうか?」
「ハハハ・・・一銭にもならないですよ・・・趣味のようなものです。こんなことをしているから女に逃げられるのですよ・・・ハハハ・・・で、武田さんは、ご結婚は? 奥にいらっしゃるのは奥さんですか?」
「・・・えぇ、女房です・・・」
「うらやましい限りですよ。お子さんも・・・?」
「・・・いました・・・」と、武田さんは目を伏せた。
「・・・ん・・・いたということですか? 余計なことを・・・」
「いえ、十五年前の夏になります。ちょっと事故で・・・生きていたなら、十八才でした。それ以来子供には縁がなくて・・・」
「事故? 車ですか?」
「えぇ、ひき逃げです。家の前の通りでした。女房が目を離した隙にバイクに轢かれたのです・・・即死でした・・・」
「・・・バイク・・・ですか? それで犯人は?」
「捕まっていません。偽造ナンバーのバイクでした。女房はとっさにナンバーを覚えていたのですが・・・目撃した人の話だと、若い男が二人で乗っていたということです。暴走族の身なりだということで、警察も簡単に捕まりますよということでしたが、偽造ナンバーということと、バイクの破片も何もなかったので・・・」
「そんなことがあったんですか。何とか早く捕まえてほしいですね。余計なことを思いださせてしまったようで・・・僕こそすいません・・・何も知らなかったものですから・・・」

「いえ・・・こちらも悪いのです。飛び出してしまったのですから・・・」
奥の漬物を作る場所に目を向けると、奥さんが下を向いてむせび泣くのが見えた。
「継続捜査ということで、人員も縮小されているようです。おそらく、もう無理ではないかと・・・」
「そうですか? で、目撃した人は運転していた男の顔を見ていないのですか?」
「フルフェースのヘルメットなので・・・ただ、左の手の小指の付け根に火傷の傷のようなものがあったということでしたが・・・確かではありません。警察も暴走族の関係を調べてくれたようですが、そのような傷のある男はいなかったということです。それと、轢いたバイクも発見されたのですが、盗難バイクでした。指紋もきれいにふき取られていたということです。もう、昔のことです・・・いまさら・・・犯人が見つかったとしても息子が帰ってくることもないし、今は、記憶の中だけに生きています。もう、終わったことですから・・・すいません、変な話になってしまって・・・雪田さんにお話しても・・・」
「いえ・・・」
と、言いかけようとした時に携帯が鳴った。新開刑事からであった。
「新開さん、何ですか?・・・」
「雪ちゃん・・・どこにいるんだよ・・・新しい情報だよ・・・本庁の科捜研からだ。手と足首は同一人物だが、手のほうは整形したような痕が分かった。最初は、溶けかかっていたので分析も難しかったのだが、かなり昔に手術したことが分かった。その線からも捜査をするということになったよ。10年以上前の手術ということらしい。当時の整形病院をしらみつぶしに当たることになったよ・・・」
「・・・手のどこなの?」
「小指の付け根だ・・・」
「何だって・・・小指の付け根・・・ちょっと待ってよ・・・」
「何が待ってだよ?・・・それと、手と足首の性格な年代も分かったということだ。十代から二十代前半だ。皮膚の組織の分析ではっきりと分かってきた。どんなにみても、30代になることはないということだ・・・少し時間がかかりすぎたが、熱で組織の分析が遅れていたらしい・・・」

「・・・」僕は言葉を失っていた。







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「現場におります。栄治に何かあったのでしょうか?警察の方ですから・・・」と、不安な顔をした。
「いえ、ちょっとお話を聞きたいだけです。栄治さんに何かあったということではありません。ご存知だとは思いますが、中川昭義さんの事件について聞きたいことがあるものですから・・・」
「・・・そうでしたか? 左京区のビルの建築現場にいます・・・今、電話してみますから・・・」

と、家の中に戻り、しばらくしてから、その現場の住所をメモしてきた。
ここから車で十五分ぐらいのところだという。

その現場に着き、片瀬栄治を呼び出した。
がっちりとした体型の、優しい顔をした男であった。

新開刑事は、中川の母親の言うことを説明すると・・・

「よく覚えています。昭ちゃん・・・昭義の仲間の野上と田中と南のことだと思いますが?・・・」
「うん・・・南・・・南紀夫ですか?」
「えぇ・・・そうです。南紀夫です。僕よりも5才年上です。野上さん・・・いえ・・・野上の一番の親友だと思います。昭義を暴走族に引き入れたのは南です・・・」


「詳しく話してもらえませんか?」と、新開刑事が言うと、昔を思い出すように・・・


「昭義が、小学校5年の時だったと記憶しています。南は、昭義の家の近くに住んでいました。年は離れていましたが、昭義と僕と南は仲のいい兄弟のようなものでした。しかし、南は野上が京都百足連合という暴走族を作ると、その仲間となったのです。最初は、十人ぐらいでしたが、次第に大きくなり三十人ぐらいになったと思います。僕も誘われましたが暴走族になることは断固として断ったのです。しかし、昭義は、兄のように慕っていた南からの誘いですから断りきれなかったのです。それで、暴走族に入って野上と知り合ったのです。野上という男も昭義のことを色々と面倒みていましたから、昭義も兄のような感覚があったと思います。それと、野上の家は金持ちで、裕福ではなかった昭義に小遣いをあげていました。だから、兄のように・・・しかし、野上の暴走行為はエスカレートしていき警察に捕まったり、さらに傷害事件も起こしたりしたのです。全ては野上の命令だったと聞いています。野上は、何もしなくて、金にものをいわせて昭義や南に命令をしていました。ひどい奴でした・・・」


「・・・ということは、昭義君や南紀夫は、野上幸則のいいなりだったということですね?」


「はい、絶対服従の関係だったと思います。それと、一年ぐらいで京都百足連合が解散になったので、その後のことは知りません・・・急に解散したのです。僕は、昭義のことが心配でしたから、昭義に会って・・・真面目に生きて欲しいと言ったのです、そうしたら、東京に行くということなのです。近所にも迷惑をかけたので、ここでは暮らせないと・・・お母さんにも迷惑だから・・・本当は優しい子なのです。全ては、南、野上・・・田中の責任です・・・」


「片瀬さん・・・その田中という人は誰ですか?」と、僕は口を開いた。


「田中ですか? 確か、野上よりも年下の奴です。詳しいことは知りませんが・・・いつも、野上と行動していました。学校にも行っていないということを昭義から聞いた記憶があります。父親と暮らしていて、遊興費は、野上から貰っているのだということでした。それで、子分のようについて回っていたと聞いています。ここ十年以上は噂も聞いていません。昭義も同じで、東京に行ったということは確認していましたが、連絡は一度もありませんでした。それが、死体で発見されるとは・・・」
と、悲しい顔をした。
「そうですか。田中という男について詳しい人はいませんか?」
「田中・・・田中・・・あぁ、・・・いますよ。叔父です・・・僕の取引先の大工なのです。確か、父親は交通事故で死んで、少しの間、田中・・・田中雅彦というのですが、その叔父さんのところにいたと聞いています。叔父さんなら何か知っているかもしれません。ここではなくて、別の現場にいますから、連絡してみましょうか?」
「助かります。それと、田中という男の名前は分かりませんか?」
「田中としか聞いていませんので・・・叔父さんに聞いてみて下さい・・・」

ということで、僕たちは新たなる情報を得た。

その叔父さんは、田中の父親が、高校の時に不慮の交通事故にあい他界してから、少しだけの間、面倒を見ていたということであった。
大工の職人らしい風貌だ。

「警察が何だ? えっ、甥っ子の、雅彦のことかい?」
「えぇ、雅彦というのか? どこにいるのかを知りませんかねぇ?」と、新開刑事。
「あんな、恩知らずの奴は知らない・・・もう、半年も連絡はない・・・生きているのか、死んでいるのかも知らない・・・で、何で東京の刑事なんだ? 雅彦が何かやったのか?」
「いえ・・・居場所を探している。何をやったとかではないが、ある事件のことで聞きたいことがある」
「また、何かやらかしたということだな? あいつなら、何をするか分かる。ろくでもない奴だから暴力団にでも入っていると思うが・・・連絡がないから何も分からん・・・東京にいると最後の電話があったが、東京のどこにいるのかは知らん・・・連絡はとれない・・・」
「東京?・・・」
「あぁ・・・半年前は金融関係の仕事だと言っていた記憶はある。ただ、どこかは知らん。父親が死んでから、俺が面倒を見てきたのに、東京に行きやがった・・・それが、十年前だ」
「・・・ということは、半年前までは連絡があったということか?」
「あぁ、半年前の電話が最後だ。今月になって少し心配になったから携帯へ電話をかけても使われていないということだ。毎年、年末には帰ってきていたが、今年の予定を聞こうと思って電話したら、使われていないということだ」
「携帯へ電話をかけたのは、いつなんだ?」
「十日前か・・・そこいらだ・・・俺に、内緒で携帯の番号を変えた。それで怒っている。まぁ、東京にいてもいいが、ただ、一人の甥っ子だから心配はしていたが、連絡がつかないなら、どうしようもない」
「十日前? それまでは、年に何回か電話はあったと?」
「あったよ・・・」
「雅彦を誘ったという人は誰なんだ? もしかして、野上か南という奴じゃないか?」
「野上だよ・・・昔からのワルだ。雅彦も野上という奴と知り合わなければ京都で仕事の手助けをしたいと言っていた。死んだ父親・・・俺の兄だが・・・大工だ。3人で工務店を作るのが夢だった。それを、野上という奴は台無しにしたということだ。暴走族に入らなければ・・・」
「雅彦の携帯番号は分かるかい?」
「あぁ、しかし、使われていないぞ。この番号だが・・・」と、携帯を見せた。

新開刑事は、その電話番号をメモすると・・・

「田中さん、必ず、雅彦さんを捜してみますよ・・・それで、捜索願を出してもらいたいのです。それがあれば、警察としても動きやすい。今、京都中央署の刑事を呼びますから書類を書いてもらいたい?」
「そうかい。あんたはいい刑事のようだな? しかし、雅彦が変な事件にかかわっていないといいのだが・・・で、何の事件なんだ?」
「鴨川で発見された、雅彦さんの知り合いの中川昭義という男の殺人事件だよ。昔の暴走族仲間を洗っていてな・・・それで、雅彦さんのことを調べるということになったんだ・・・」
「・・・雅彦も殺されているということか? えっ、どうなんだ?」
「・・・それは分からないから、こうして調べているんだよ」
「何もなければいいが・・・確かに、雅彦はワルだが、人を殺すような度胸はない。俺が一番知っている・・・雅彦に限って殺人をすることはない・・・頼むよ、刑事さん・・・」

叔父さんの態度は一変していた。顔には、殺人をしたのではないかということと、逆に殺されているのではないかという不安で蒼白になっていた。

新開刑事は、桑原刑事に連絡して捜索願の書類を持ってくるように指示している。


その間に僕は、叔父さんに尋ねた。

 




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■三章 過去 

京都の鞍馬の中川昭義の母親の家の前に着いた。

「ここですね? 新開さん・・・このアパート・・・101号室・・・」
「よし、ドアをノックしてみよう・・・」と、ドアをノックした。

しばらくすると中から、咳声とともに白髪の女性が顔を出した。
「・・・何ですか?」
「警察のものですが、中川昭義さんの?」
「母ですが・・・まだ、何か?・・・知っていることは全てお話しています。もう、話すことはありません。早く、昭義を殺した人を捕まえて下さい。昭義が不憫でなりません・・・」
と、体を丸くして咳き込みながら尋ねた。
「えぇ、必死で捜査しています。今日は、昭義さんの過去のことについて伺いたいことがあります。ちょっとお時間をもらえませんか?」
「・・・過去ですか?」
「えぇ、中学から高校にかけてのことです・・・事件に関係があるかもしれないのです?」
と、新開刑事は優しく母親の顔を見た。

すると、部屋の中に入って下さいという素振りになった。
母親は、60才ぐらいだと思う。肺と気管支の病気のために寝たきりだという。

その病気のせいで、年よりもかなり上に見える。

頬は痩せこけ、体も細く、見るからに病人ということが分かった。

生活保護を受けながらの生活だということも聞いていた。

「お母さん・・・昭義君の学生のころの話をしてもらえませんか? 学校のことよりも、学校以外でのことです。暴走族に入っていたということはありませんか?」
「・・・中学のころには・・・京都百足連合という暴走族に入っていました。免許もないのに、バイクを乗り回したり、他の暴走族と喧嘩ばかりしていました。小学生のころから、そのような人たちと付き合い始めて、中学には、どうしようもないほど悪事をしていました。私には止めることはできません。警察の方にも迷惑ばかりかけていました・・・」
「小学生から? 付き合っていたのは何という名前か覚えていませんか?」
「名前ですか? ええっと・・・確か、野上とかいう人と・・・田中という人と・・・その人たちは昭義よりも年上で、確か・・・あの当時は高校生ではなかったかと思います。何度か家に来たことがありました。それと、もう一人・・・名前は思い出せませんが・・・よく来る男がいたと思います。それ以外にも暴走族の人はいましたが、その三人が昭義を迎えにきたりしていました・・・」と、咳声になった。
「野上・・・野上に間違いはありませんか? 野上幸則・・・この男ですか?」
と、新開刑事は、野上の写真を見せた。


「・・・・・少し太ったように思いますが、間違いないと思います・・・目元のホクロに記憶があります。野上という男だと・・・昭義のことを好き勝手に利用していました。昭義には兄弟がいませんでしたから、兄のように慕っていたと思いますが、私から見たなら、やくざの子分のようなものでした。この野上という男が昭義を駄目にしたのです。この男と出会うまでは素直でいい子供でした・・・」
「そうでしたか・・・野上に間違いないということですね・・・それと、もうひとつ聞かせて下さい。南という男の名前に記憶はありませんか? 例えば・・・南紀夫・・・」
「南ですか? 南も野上と同じです。小さいころはいい子だったのですが・・・田中という男の名前は記憶にありません。 すいません・・・」
「いえ・・・記憶にないなら仕方ないと思いますが、あの当時の写真などはありませんかねぇ?」
「写真? 別の刑事さんにも聞かれましたが、一枚もないのです。生まれた時の写真はありますが、大きくなってからの写真はありません。写真の嫌いな子でしたから・・・」
「・・・そうですか・・・」と、新開刑事は残念そうな顔をした。
そこで、僕が尋ねることになった。
「雪田といいますが、お母さん・・・昭義君の暴走族以外の友人はいませんでしたか?」

「はい、何人かいました。小野田、志垣、確か・・・それと、年上になりますが、片瀬という人です。片瀬という人は、昭義の学校の先輩でした。昭義が暴走族に入ったことを残念に思っていて、何度も忠告してくれた人です・・・ 」
「その、片瀬という人の住所を知っていませんか?」
「知っています・・・近所です。昭義の葬儀にも来てくれました・・・」
その片瀬という男に会うために、僕たちは片瀬の自宅へ向かった。
この時点で、京都中央署の桑原刑事に片瀬という男のことを聞いたのであるが、署としては全く知らないということであった。


そこまでは捜査していないということだ。あくまで、暴走族の線からの捜査が中心であった。
片瀬栄治は中川昭義の三年先輩になるという。
建築関係の会社で働いているということも分かった。


「新開さん、野上幸則と中川昭義の接点はありましたね。大きな収穫ですよ・・・南紀夫との接点が不明なのが残念ですが・・・それと、田中とかいう男は誰なのでしょうか? 野上と一緒にいたということは、今でも野上と付き合いがあるのではないでしょうか? 田中・・・」
「雪ちゃん・・・俺もそう考えていたよ。それと、もうひとり・・・南ではないかと思う。写真でもあったなら、早かったが・・・日光南署に連絡して南紀夫の写真を送ってもらうことにするか? 俺のミスだ・・・野上の写真しかなかったからな・・・とにかく、隠し撮りでいいから送ってもらうことにする・・・」
と、新開刑事は、今野刑事に連絡をして写真の手配をした。
車は、片瀬栄治のいる家に着いた。


大きな家であり、表札には片瀬と書いてある。
おそらく、この家の息子なのではないか、さらに、表札の横には片瀬工務店とも記載されていた。


ドアのボタンを押した・・・
中から中年女性が顔を見せた。身なりのしっかりとした落ち着いた感じの女性であった。
「何かご用ですか?」ゆっくりと話す。

新開刑事は、素性を話して、片瀬栄治の所在を尋ねた。







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「えぇ、野上の友人です。それと、恵理子さんも知り合いということで、当日、恵理子さんと一緒に車に乗っていたという男です。南紀夫と言うそうですが・・・」

「恵理子と一緒に?」

「何か誰かに貸すお金を運ぶために同行したということです」

「それで疑われているということですね?・・・」

と、岩崎弁護士は、僕から聞いたことの大半を三浦真紀に話してしまったのだ。


「三浦さん、僕が話したことを恵理子さんには言わないで下さい。あくまで、今の段階の捜査状況ということです。もし、恵理子さんに話してしまうと悲しむと思います。どうか、約束は守って下さい」

と、自分ことは棚にあげていた。


三浦真紀に話したことで、三浦真紀は知らなくてもいいことを知ってしまった。

そっちのほうが、どんなに悲しいのかということを岩崎弁護士は考えてもいなかったのだ。

「そういうことですが、これから食事でもしませんか? 仕事も終わったので?」

「いえ・・・今日は帰ります・・・」と、三浦真紀は、複雑な顔をして足早にその場を去った。

岩崎弁護士が、三浦真紀に話したということで捜査がかく乱されていくのであった。

つまり、三浦真紀が妹の安永恵理子に話してしまったということだ。


それによって、捜査状況が野上にも伝わることになる。


そんなことも考えないで岩崎弁護士は、捜査状況を話したということと、その後、三浦真紀から、しつように捜査状況について尋ねられることになり、警察の動きの大半は洩れることになる。

岩崎弁護士も、三浦真紀に好意をもっていたのであるから、ある意味において好かれようとしていたと思う。

結局、三浦真紀からの連絡のたびに、僕から聞いた事件の情況を話すことになった。







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そのころ、東京の岩崎弁護士は、とんでもないことをしていた。

例の見合い相手の三浦真紀と会い、妹に容疑がかけられているということを話してしまったのだ。

「えっ、妹の恵理子が? どういうことですか?」

「とにかく、その野上とかいう男も関係しているということですよ。例の日光で発見された足首だけの死体・・・何か、それに関係しているのではないかということです」

「殺人事件の容疑ということですか? まさか・・・恵理子に限って・・・そんなことは・・」

「そう思います。三浦さんの妹さんに限って・・・そんなことはないですよね?」

「岩崎さん・・・もう少し詳しく話してくれませんか? 知っているところだけでいいのです?」

「口止めされているから・・・まぁ、いいでしょう。三浦さんなら何の問題もないと・・・」

「すいません・・・お願いします・・・」と、頭を下げた。

岩崎弁護士・・・弁護士というのは、口が堅いのではないのか?

ちょっと、美人とみると・・・こうなってしまうのか?

岩ちゃんも、男・・・ということであった。

「三浦さん、恵理子さんと付き合っている野上幸則を最重要容疑者として身辺調査をしているということです。その流れで、恋人の恵理子さんにも容疑がかけられているのです。勿論、その事件当日のアリバイは完全だということなのですが、警察としては、そのアリバイを疑問視しています。恵理子さんも共犯ではないのかと・・・」

「そうなんですか? 恵理子に限ってそんなことはないと信じていますが、野上という男と付き合っているから、こんな事件に巻き込まれるのですね。殺人事件なんて、それも容疑者だなんて・・・早く、別れさせておけばよかったと後悔しています。それで、恵理子の身柄はどうなっているのでしょうか?」

「拘束されているということはないようです。容疑といっても、参考人という扱いになっていると聞きました。おそらく、警察は身辺調査の段階だと思いますが・・・何もないですよ・・・心配ないです。ただ、足首の発見された当日に、近くを車で走っていたということですからね。それで、恵理子さんにも容疑がかかったということだと思います。まさか、野上が主犯で、恵理子さんも共犯ということは絶対にないと思いますよ・・・もう一人の不審な男も走査線上にあるそうですから・・・」

「男?・・・」








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「雪ちゃん・・・俺も同じ考えだ。予定外のことが起き、仕方なく足首を日光へ運んだ。そこまでは当たっているかもしれないが、何故、日光という場所で、簡単に発見されるような場所だったのか?」

「おそらく、犯人は、あわてていたのかもしれません。穴を掘って深く埋めようとしていたが、誰かが来たので深くは掘ることができなかったとか?」

「いや、それはないと思うよ。誰かが来たのなら、掘るのを止めて他の場所に変更したほうが安全だし、日光南署の話だと目撃者はいないということだ。誰かに見られるということはなかったと思う・・・」

「そうですよね・・・確かに・・・しかし、掘った穴の深さは浅かったということですが、普通ならかなり深く掘ると思うのです。それが、浅い・・・時間がなかったのかも?」

「時間? 何の時間? うん、何らかの時間に間に合うようにした・・・だから、深く掘ることができなかった・・・そうかもしれんな?」

「しかし、日光の必要性は、ないと思います。奥多摩でも丹沢でもいいはずですよ。日光? 何かがあるのでしょうね? 日光でなければいけない何かが?・・・」


そんな話をしていると、新幹線は京都に着いた。


京都に着くと、その足で京都中央署の桑原刑事を尋ねた。

「その後の、中川昭義の件は進展がありますかね?」と、新開刑事が尋ねた。

「残念ですが・・・進んでいません。母親の線からも調査してみたのですが何も出ませんでした。完全にストップした状態で、署としても困っているのです。野上幸則も走査線上にのぼっているのですが、野上のアリバイはどうでしょうか?」

「残念だが、中川の殺害された日のアリバイは完璧すぎるぐらいだ。野上は、一日中、自分の飲食店の中にいて打ち合わせをしていたことも確認されている。野上の線はないな。しかし、誰かに依頼したということは考えられるから、野上の女の安永恵理子のアリバイも日光南署に確認したが、こっちも完璧だ。」

「そうですか・・・アリバイ成立ということですね。それ以外の人物ということもありますから引き続き捜査をします。しかし、物証も何もない事件は辛いですよ・・・困った・・・困った・・・」
と、桑原刑事は、頭をかきむしった。

桑原刑事という人は、年のころなら、僕と同じぐらいだと思う。
交通課から、刑事になった変り種ということを聞いた。
最初は、パトカーの警官になりたいと思っていたのだが、現場の捜査に憧れるようになり、刑事になったということであった。
車についての知識もかなりのものだと聞いた。
昔は、暴走族にも入っていたという噂も聞いた。
その線で暴走族の内情にも詳しいのかもしれない。


そして、僕たちは、中川昭義の死体が発見された場所を見ることにした。

「いいところですね・・・冬の京都は素晴らしい・・・雪があったなら、もっといいですよ・・・」
と、僕は大きく手を空に向けた。

「そうだな。仕事で来るようなところじゃないな? こんなに風光明媚な場所に殺害死体は似合わないな。川の流れの音・・・小鳥のさえずり・・・そよぐ風が木にあたり、木の葉がヒラヒラと舞い落ちる。なんと素晴らしい景色、なんて素晴らしい陽の光・・・その光の中に男と女がいる・・・そして京の建物の風情・・・そして、祇園の街・・・そこで食べる京懐石が・・・人の殺伐とした心を癒す・・・京都に来ると、皆、詩人になれるんだ・・・なんてな・・・」と、新開刑事。

「ハハハ・・・新開さんは似合わないよ・・・こんなところに捨てられた中川の生い立ちを調べることが先決ですよ。それから、京料理ってとこですか? あーあ、こんな綺麗な川のほとりで京美人としっとりと歩いてみたいもんですよ・・・僕も、岩ちゃんのように美人と見合いでもしたくなりましたよ」

「俺もだよ・・・古女房じゃぁ・・・な。俺にも第二の人生があってもいいと思うよ・・・」

「・・・新開さん・・・無理ですよ・・・いまさら・・・無理、奥さんと一生・・・」

ひとしきり、死体発見現場を見た後で、中川昭義の母親のところに行くことにした。

ここからだと、車で40分ぐらいだということであった。








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新幹線の車内で新開刑事が僕に尋ねた。

「雪ちゃん・・・考えてみると不可思議な事件だよ。手と足首・・・どう考えても面倒なことをやっている。仮に・・・普通に死体をバラバラにしたなら、全部を、色々な地域の山の中の土に埋めるとか、コンクリートで固めるとか、海の中に捨てることのほうが簡単だし安全じゃないかい? 解体車の中に入れて溶かすということは、かなりの危険があると思う。以前、雪ちゃんから聞いたことがあったが、解体車を持ち込む場合は、車の中は徹底的に調べるということだよな・・・鉄以外のものが入っていないかと調べる。それならば、その時点で発見されるというリスクはあるな。いくら、オイル缶の中に入れていても・・・」

「えぇ・・・普通はそうですが、知り合いの解体屋に聞いたところ、長い付き合いの場合は、適当に車の車内を見る程度だということです。おそらく、信用があるということで、そのような業者は調べないのかもしれません。だから、木村自動車解体のような老舗の場合はリスクは少ないのだと思います。木村さんも言っていましたが、古い付き合いなら、解体車の受け入れ作業の時間短縮のために、全く見ないこともあるそうですよ・・・」と、僕が言った。

「とすると、可能性はあるということだな。そうなると、誰が木村自動車解体の車のガラに手を入れたのかということだ。俺の勘では、死んだ中川昭義という線が強いと思う。どこかの誰かが木村のヤードに入ってオイル缶を取り出して手を入れるということはないと思う。手を車のガラに入れるのであれば最初から何かの缶に手を入れて持ってくるというのが筋だろう・・・まさか、電気炉の工場の設備のトラブルで運転停止になり、手が発見されると予想もしていなかったということだ。つまり、その手を入れた奴は、安全で危険・・・リスクの一番ないということで車のガラの中がいいと判断した・・・完全に溶けてなくなるという意味においても・・・」

「えぇ、僕もそう思います。運転停止という予想もしないことが・・・起きた・・・しかし、新開さん、もうひとつの疑問が残ります。手だけの死体が発見されたというニュースはテレビなどで何度も放送されました。ということは、その犯人も知っていたに違いないのです。確か、日光の足首が発見された日よりも、横浜で手が発見された日のほうが早いのですよね?」

「そうだよ。確か、2日早いと・・・ということは?」

「えぇ・・・犯人は、足首も電気炉に入れようとしていたと思うのです。しかし、手が発見されたということで、足首の捨て場所を変更した・・・どうも、そう思えるのです。日光の足首は、予定外の行動ではなかったのでしょうか? しかし、どうして日光なのだろう?・・・」







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横浜の電気炉の工場で発見された、溶けない手の中に入っていたメモを鑑識が必死で判読していたのであるが、そのメモ用紙のようなものの中に、ひとつだけ文字を判読することができたというのだ。

おそらく、死に際に手の中にしまいこんでいたのだろうと推測される。

殺害した犯人に分からないように手の中にしまいこんだ・・・?

それを知らずに犯人は、何らかの方法で殺害し、その後手首を切断した。

しかし、手の中にあったので、電気炉で完全に溶けることはなかったのだろう。

運良くシュレッダーもかわし、電気炉でも溶けなかった・・・執念なのかもしれない?

殺された男の、ダイイングメッセージというものだと思った。


その文字というものは・・・し○○○・・・という文字であった。

「し」という文字しか判読できない・・・

それ以外にも、何かが書かれているのは間違いないのであるが、鑑識の力を総動員しても判読することはできなかった。

しかし、「し」という意味は何なのだろうか? そして、その後に続く文字はいったい何なのだろうか?

僕も新開刑事も、頭をかかえてしまっていた。勿論、捜査員全員が・・・

さらに、その手は、手首から切断されていたのであるが、手首から2cmのところ・・・つまり、親指の付け根の部分で残っていたのだ。

そのメモを解読することができたのなら・・・一歩、犯人に近づく・・・


僕たちは、そのメモの文字を気にしながら新幹線に乗り京都へ向かった。








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「いえいえ・・・関係ないですよ・・・しかし、あんな馬力の車なら、タイヤなんかも高性能なんでしょうね? いやね、昔、暴走族から聞いたことがあるのです。新車の純正タイヤだと、何だかパワーに負けてしまうとか・・・タイヤは純正のようですが、高性能のタイヤにはしないのでしょうかねぇ?」

「タイヤ・・・そんなことは野上さんに聞いて下さい。私は車のことは分かりません・・・野上の言う車に乗っているだけです。」
と、いらだつような顔をしていた。

「では、最後になりますが・・・安永さんと野上社長は、男女の関係ですよね?」

「・・・それが事件と関係あるとは思えません。どう思われても結構ですが、これから用事がありますから、これでいいですね? 最後と言われましたから・・・」

「ご苦労様でした・・・」と、今野刑事は、ニヤリと笑った。

その顔は、まるでスッポンが笑ったようでもあった。

何故、笑ったかというと、安永恵理子はそのベンツで来ていて、参考人聴取の間に、ベンツの車体の内側についた土を調べていたのだ。タイヤには何の証拠もなかったが、中禅寺湖のほとりの土質なら、タイヤが跳ね上げたかもしれない土が付着しているのではないかということだ。

それと、今のタイヤの走行距離は、減り具合から約1万キロということであるが、メーター内の走行距離を調べようとしていたのだ。
しかし、メーター内の走行距離のカウンターは、エンジンをかけるか、イグニッションキーをオンにしないと見ることはできない。
セキュリティー装置がついているので、うかつに手を出すことはできなかった。

安永恵理子がベンツに乗って走りだそうとした時に、今野刑事は、車の前に飛び出して止めた。

「すいません・・・もうひとついいですか?」

「危ないじゃないですか?」と、安永はパワーウィンドウを下ろした。

「すいませんね・・・もうひとつだけです・・・あの日、会社に戻ってから、どこかに出かけたことはないですか?ずっと会社にいたと?」と、今野刑事は、運転席のメーター類を覗き込むような仕草をした。

「ちょっと、顔を近づけないで下さい・・・夕方の6時まで会社にいました。その後、マンションに帰りました・・・もう、いいでしょう・・・失礼なことばかり・・・」
と、安永恵理子はアクセルを踏んで警察署から大通りへ出た。

安永恵理子のベンツの走行距離のメーターは、1万キロ程度ではなく、2万キロに近い数字になっていた。


間違いなく、あのタイヤは新車の時からのタイヤだけではない。

一時期、純正以外のタイヤを履いていたことは間違いないと思われた。


ということで、あのタイヤ痕の高級タイヤ・・・フランスのミシュラン製のタイヤであるが、それを販売したタイヤ専門店等をしらみつぶしに捜すことになったのだ。

これは、全国のタイヤ販売店などを対象としての捜索になった。

しかし、個人的に外国から輸入したとなると完全にお手上げになるということも分かった。



そのことは、新開刑事にも報告された。

「今ちゃん、やはり、タイヤを履き替えていたな・・・よし、その線からも調べ上げてくれ。何課完全な証拠となるものがないと、これからは難しい・・・相手は、そう簡単に落ちるようなタマじゃない。ひとつずつ積み上げていくしかないと肝に銘じておけよ・・・小さなことも見逃さないことだ。地道に捜査したなら、必ず、どこかにボロがある。そのボロの隙間を見つけるんだ・・・俺は、これから京都に向かう。必ず、京都で証拠をつかんでくるさ・・・今ちゃん・・・頼むぞ」

と、新開刑事の語気は強かった。

さらに、面白いことが分かった。






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また、僕の悪い探偵癖が出てきたのかもしれない。

店は、新藤にまかせて、2〜3日行ってくることになった。



僕たちが、京都へ行く日のことであった。



日光南署においても安永恵理子への任意聴取が再度行われることになった。

安永恵理子は、任意ということでも素直に従ったということであった。

「担当の今野と言います。今日は、ご足労です。少し伺いたいことがありますので答えていただけますか?」

「私の知っていることなら・・・」

「まず、最初に、南紀夫さんとのことについて聞きます。付き合いは長いのですか?」

「いえ、野上さんから紹介されました。2年ぐらい前だと思います。野上さんの友人ということで紹介してもらいました。それからの付き合いですが・・・調査員ということでした。色々な人の調査をしていると聞いています」

「何の調査員ということですか?」

「金融関係だと・・・詳しいことは知りません・・・色々な金融関係の借りる人の調査だと・・・」

「そうですか。それで、あの日、つまり、1000万円を運んだ日のことですが、どうして南さんに依頼したのですか?」

「野上さん・・・社長が、依頼したと思います。私ひとりだと危険だということでした。日光の郊外にある倉田製作所という工場へ運転資金を持っていったのです。それで・・・南さんが同行してくれました。その倉田製作所の社長さんも南さんが調査したということを聞いています。それで、南さんが・・・」

「なるほど、でも、おかしいですね。日光市内では、ベンツの中に安永さんの姿は、Nシステムに写っていましたが、中禅寺湖のNシステムには写っていませんでした。ということは、倉田製作所へ行った後に、あなたはベンツを降りたということですか? それにしても、倉田製作所と中禅寺湖とは反対の方角です?」

「はい、倉田製作所へお金を届けてから、私は、所用で降りました。その後は、南さんが運転して帰ったと思いますが、どこかに寄るようなことを言っていたのを記憶しています。何かの調査をするということでした・・・」

「どこでベンツを降りたのですか?」

「日光市内です。私の好きな食べ物・・・ケーキなのですが、そこのケーキを買って帰ることにしたのです。それで、南さんとは別れました。それから、私は、ケーキを買ってタクシーで会社に戻ったのです。それが何か問題なのでしょうか? まるで、何かの犯人のような質問だと思います・・・」

「いえ・・・ある事件の参考ということで、その時間帯に、Nシステムに写っている人には全員尋ねています。ケーキということですが、どこの店のケーキですか?」

「ワタナベケーキという店です。調べてもらったならすぐに分かると思います。月に3回は買っていますから、それと、そこの店の奥様とは友人ですから、もし、何かの疑いがあるなら証言してくれるはずです。私は何の容疑があるのですか? 参考ということですが、これでは疑われていると思います。確かに、ナンバープレートの変形した車を運転していたことは事実ですが、それが何かの犯罪なのでしょうか? ナンバープレートの件だと思ったから、こちらに来たのです。日光で殺人事件があったということも聞いていますが、私とは何の関係があるのですか?」

「まぁ・・・落ち着いて下さい。安永さんが何かの事件の容疑者ということではありません。あくまで、参考ということです。皆さんに同じことを聞いているので、協力してもらえませんか?」

「・・・分かりました・・・他に何か?」

「その日は、会社を出た時間と会社に戻ったのは何時ですか?」

「確か・・・8時半です。戻ったのは9時半だと思います。南さんは、11時ぐらいです・・・」

「南さんのことはいいですよ・・・あなたのことです・・・9時半ですね?」

「はい、ケーキ屋さんを出たのが9時10分ぐらいだと思います。間違いないと思います」

「ということは、8時半に会社から1000万円を積んで出た。おそらく、倉田製作所に着いたのは8時50分ぐらいですね? そして、ケーキ屋に向かった・・・そして、9時10分・・・」と、今野刑事は優しく尋ねた。

「そうだと思います。お金を渡してから、すぐにケーキ屋に行ったのですから・・・」

「そうですか? それで、つかぬことを聞きますが、あのベンツは野上さん名義になっていますね? ナンバーも東京の多摩ナンバーです。あなたは貰ったのではないのですか?」

「貰っていません・・・社長が使っていいといったのです。私のものではありません」

「そうですか、しかし、あんな高級なベンツを勝手に使っていいとは、羨ましい限りですな?乗り心地はどうですか? 貧乏刑事には一生縁のない車ですよ・・・ハハハ・・・」

「・・・それが事件と関係あるのですか? 乗り心地が?・・・」







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