「おかえりなさい。皆、待っているわよ・・・佐知子さん・・・初めまして・・・」と、かあさんが、佐知子の持っていた小ぶりのスーツケースを持ってくれた。
「遅かったわね・・・どこか行っていたの?・・・」と、かあさんが聞いた。
「うん、小学校を見てきたんだ・・・懐かしくてね・・・」と、言うと。
「そうかい・・・早く上がって・・・とうさんも、久恵も楽しみにしているよ・・・」
「お兄ちゃん、彼女を紹介してよ・・・」と、久恵が、玄関に出てきた。手には赤ん坊を抱いていた。
「あぁ、まず、とうさんに会うよ。とうさんはどこ・・・」と、聞くと「ちょっと前まで、居たけど、病院に行っているよ・・・今日は、診察の日だから・・・1時間もしたら帰ると思う」と、久恵が言った。
「えっ、一人で行っているの・・・」僕が不思議そうに尋ねると「一人じゃないよ・・・彼が車で連れて行ってくれているの・・・お兄ちゃんが、帰ってくるのが遅いから、連れて行ってもらったの」どうやら、久恵の旦那が連れて行ってくれているのだ。
「そうか・・・で、とうさんの具合は・・・」と、聞くと「以前よりも大分良くなったみたい・・・ねえ、おかあさん」
「とうさんのことは心配ないよ。もしかしたら、来年には何か外で仕事が出来るかもしれない。内職の仕事も問題なくこなしているしね。それはいいから、佐知子さんでしたよね・・・隆弘の母です・・・」
「初めまして、岩田佐知子と言います・・・」と、頭を下げた。
「隆弘が相手だと大変じゃないですか?・・・根っからの頑固者だからねぇ・・・」と、かあさんは僕をチラリと見た。
「いえ、優しくしてもらっていますから・・・」と、少し照れたような顔で言った。
「橘久恵と言います。兄がお世話になっているようで、これからも宜しくお願いします。ちょっと変わり者ですが、根は優しい兄ですから・・・困ったことがあったら、何でも相談して下さいね。何でも力になりますから」と、余計なことを言う。
普段は、余計なことを言わない妹なのであるが、今日は何か違う態度だ。
弘子の時と、あきらかに違う。結婚して出産したので、女として強くなったのかもしれないと思った。
かあさんが、今夜は、僕の好きなカレーライスを作ると言う。そのために、食材を買いに行くのに、佐知子も連れて行きたいと言った。かあさんと、佐知子の二人で買い物に行った。僕は、少し不安になった。
不安というのは、女二人だけであるから、何か余計なことを話さなければいいがと思ったのだ。
かあさんも、弘子の時と何か違う態度である。弘子の時は、お客さんという感じで対応していたが、佐知子の場合は、僕の嫁という感じで対応していたのだ。
「佐知子さん、今日は有難う。隆弘は優しいと言っていたけど、気性の激しい時もあるから、その時は、無視しておいてね。それと、一度、結婚に失敗しているから、女性に対しては、何かトラウマになっていると思うのよ。
母からのお願いだけど、ちょっと聞いて欲しいの、いいかしら?・・・」と、かあさんが佐知子と歩きながら話した。「はい、何でしょうか・・・確かに、少し頑固なところはありますが?・・・」
「私が思うに、隆弘は、あなたで2人目ぐらいの女性だと思うの、だから、過去に結婚していたとしても、女の扱い方は、何も知らないと思うのよ。結婚していた期間も短かったし、しばらくは、苦労すると思うけど、少し我慢して欲しいのよ。勝手なお願いだけどきいてくれる?・・・」
「勿論です。お母様の言うと通りかもしれません。でも、私は大丈夫です。隆弘さんを支えていきたいと思っていますから、安心して下さい」と、佐知子は、しっかりした口調で答えた。
「有難う。私のお願いは、もう一つあるの。聞いてくれる?・・・」
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悲しみを乗り越える時に・・・
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