「どういうことですか。それは、そっちの話ではないですか。社としてのお金を、新山さんに払うことは私の一存では決定できません。それと、いくら貰うと話しているのですか?・・・」と、直球勝負に出てみた。
 


 「まあ、話してもいいだろう。あの兄弟の言い値なら、俺に、3000万円が別に入る。あんたの会社の金額なら、俺には、規定の報酬しか入らない。それじゃあ、俺は面白くない。そういうことだ」 


「そういう裏取引があったのですね。そんなことを私に話してもいいのですか」と、聞くと。 


「あぁ、この土地は単独では誰も買わない。それは調べてみて分かった。あんたの会社が近隣をうまくまとめていると聞いた。近隣を買収しないと無理なのは分かる。だから、あんたの会社で買ってもらうしかない。俺は、どちらの味方でもない。金をくれるほうにつけばいいだけだ。あんたの会社で何とかならんか。3000万円とは言わん。ある程度のまとまった金額なら、俺は、その兄弟を説得する自信は100%ある。どうだ、それを社長に話してくれんかな。あんたを信用して、話しているんだ・・・」やっと、本音を話してきた。 


 僕は、何とかなると思っていた。完全に、立場が逆転の方向に向かっていたのであった。 


 「そういうことですか。それでは、社長に相談して、連絡します。それでいいですね・・・明後日までには、連絡できると思いますが、新山さんの希望金額は絶対に無理です。それだけは承知しておいて下さい。購入価格が決まったなら、その中から、取ればいいでしょう。私の会社から、新山さんに支払うということは、大きな問題となります。あくまで、こちらは、購入価格を少し上げる努力はしますが・・・それでいいですね」 


「あんたに、任せるよ・・・契約できないほうが、一銭にもならんからな・・・」 


と、ニヤリと笑って僕を見た。こんな弁護士もいるのだ。僕は、驚くというよりも情けない気持ちのほうが強くなっていた。こんな弁護士で、最難関の司法試験に合格した人なのだ。人のために人の幸せのために働くという、本来の心情を忘れている、悲しい人だと思った。 



この時、僕の心の中に、弁護士資格を取るという気持ちが強くなっていたのだ。 


 漠然とではあるが、司法試験に挑戦してみたいと思っていた。 


僕は、社に戻って、今日の話を社長に相談した。社長は、取引銀行の担当に電話をして、追加融資の件を話している。購入金額が増えるということは、建築するマンション全体の必要経費を削る必要が生じるのだ。

電話は、20分以上続いていた。 


  「井上、追加融資の件は問題ない。当初の予定よりも、4000万円多く融資をしてくれることになった。それで、話してくれないか。最初、弁護士が提案してきた価格よりも、5000万円は少なくなるから、それで納得してもらってくれ。これから、設計の奴と話して、多少の設計変更が必要になると思う。それでも、十分な利益は確保できると思う。早速、動いてくれ・・・頼むぞ」と、社長からのOKが出た。 



 僕は、翌日、新山弁護士の事務所へ向かった。 

 「社の金額が出ました。当初の価格よりも、4000万円を上乗せします。それ以上は無理です。これで納得して下さい。いいですか?・・・」と、開口一番、僕は、はっきりと言った。 


4000万円か・・・仕方ないな。俺の取り分は、1000万円・・・いいか・・・仕方ない・・・」 

と、不満な顔をしていたが、結局は、その価格で納得するしかないようであった。 


 「では、これで決定です。兄弟の人に話してもらって、できるだけ早く契約したいと思います。明日までに連絡をくれますか?」と、聞くと。 


「ちょっと待っていろ。今から電話してみる・・・」と、電話をかけ始めた。 


意外なほどに電話は早く切れた。 


「その金額でいいそうだ。早く契約したいと言っている。今週末でもいいぞ・・・早く、金が欲しいそうだ」 


「分かりました。では、後ほど連絡します」と、一礼して席を立とうとした時である。 



 「あんた、いい根性しているな。うちの事務所で働かないか・・・不動産屋にしておくのは、もったいない。若いのにたいしたものだ。どうだ・・・」と、僕をスカウトするということであった。 


「いえ、僕は、不動産が好きです。遠慮させてもらいます」と、きっぱりと断った。








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